第19話 経過診察

“次の土曜日は開いていますか?”

 寧々がSNSで送ってきたメールに、俺は“用事がある”と返答した。その日、つまり今日は病院に行く日であった。

「佐久良さん、どうぞ」

 俺は看護師の指示に従い、部屋に入る。そこには、老年の医師がカルテを見ながら座っていた。

「おぉ、佐久良くん。久しぶりだね」

「お久しぶりです、たちばな先生」

 の専門医である橘先生は、ゆったりとした動きと声で俺と挨拶を交わした。俺が椅子に座ると、橘先生は早速話に移った。

「それでどうかね佐久良くん、体調の方は?」

 その返答に「特には何もないです」と言うと、橘先生は「よかった」と言って、事前に撮っていた脳のCT画像を見せてくれた。

「見てくれ、分かりづらいかも知れないが、君が一年程前に自宅の階段から落ちて出来た脳の損傷が直ってきている。もうしばらくは経過診察が必要だろうが、このままいけばその必要もなくなるだろう」

 橘先生はそう安心させるように言った。体にも異常はない為、本当にこのまま直るであろう。

「分かりました、ありがとうございます」

 俺がそう返答すると、橘先生はニヤリと笑って雑談を開始した。

「それはそうと、佐久良くん、今日はいつもより明るいね、何かある、またはあったのかい?」

 確かにあった事にはあったが、そのおかげで明るくなった自覚は無いので、俺は首を傾げた。すると、橘先生は「そうか」と笑ったまま言うと、俺の肩をポンポンと叩いた。

「まぁ、自覚するのはもう少し後で良いだろうさ。人との会話は良いことだからね、これからもその関係を続けてきなさい」

 やはり寧々との事だろうか。抽象的でしっかりとは分からないが、とりあえずそう言う事にして頷くと、看護師が橘先生の名前を呼んだ。後がつかえているのだろう。橘先生は焦った様子で次の予定を聞いてきたが、こちらも特に何かある訳ではないので、来月も第四土曜日となった。

「薬はこれまでと同じものを一か月分出します。痛み止めは痛くなったら飲んでください」

「はい、ありがとうございました」

 そう返答して部屋から出て、少し待ってから清算を済ませ、薬を貰って帰宅した。

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