第16話 学年の中心人物

 次の日、俺が普通に登校すると、寧々がいの一番に声をかけてきた。

「おはようございます、腕、大丈夫ですか?」

 寧々は挨拶も程々に、俺の腕に触れ、長袖Yシャツの袖を捲ろうとしてきた。俺は驚きながら手を引くと、寧々は顔を膨らませた。

「なぜ見せてくれないのですか?やはり痕が酷いのではありませんか?」

 確かに、見た目は大きな痣なので、痕が酷いと言えばそうかもしれない。だが、自分で行(おこな)ったことなので、後悔はしていない。だがあの痣、数日は残りそうなので、見せたら直るまで謝られ続けそう。その為、寧々に見せる訳にはいかなかった。

「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ人に捲られるのが気になっただけだよ」

 俺の言葉に、寧々は少し安心したような表情を見せたが、すぐに顔を膨らませ「じゃあ見せてください」とせがんできた。その為、俺はあるものが剥がれないように気を付けながら、袖を捲った。

「何も、無いですね……良かったです」

 別に反対の腕を出した訳ではない。俺は家で事前に、肌に貼って傷痕やタトゥーなどを隠すシートを張っておいたのだ。その為、触らなければ、光の加減にもよるだろうが気付かれにくい。案の定寧々は気付かなかったようで、安心したようだ。

「朝からすみません。今日もお弁当用意しましたので、一緒に食べましょう?」

「分かった。こっちはもう大丈夫だから、気にしないでくれ」

「はい。では、また後で」

 そう言って、寧々は教室から出た。教室内は、ハンカチの件から数週間、満開だった中庭の桜も、葉桜を過ぎ完全に緑一色となった今でも叫ぶ者や、射殺さんとする者で溢れていた。だが、幸いな事に、まだ物理交渉やイジメをしようとする者が居ず、俺はとてつもなく安心していた。

「お前らって付き合ってんのか?」

 ふと、後ろから話しかけられ、振り向くと、そこには長身で髪を遊ばせた同級生の男子、新田 正樹にった まさきが、イラついたような表情で立っていた。その表情を見て、俺は軽く動揺しながら、精一杯返答した。

「い、いや、付き合ってはいないよ」

 俺が一生懸命言った言葉に、正樹くんがいぶかしむように目を細める。

「本当か?ならなんで最近いつも一緒にいるんだ?」

「それは……」

 彩さんの話はしないほうが良いと思った。この話はこの学校の三学年の生徒の多くに刺さる内容なので、あまり言いたくないのと、寧々がこの事をまだ引きずっていると思われてほしくなかったからだ。

「それは、俺が寧々の事を手伝っているだけで……」

 俺が正樹くんを刺激しないように言うと、正樹くんは俺の予想に反し、苛立ちを増した。正樹くんは、見た目こそキツそうに見えるが、実は優しく、文武両道でカリスマ性もあり、とても周りに憧れられている人間だ。だが、怒ると怖い人でもある。

「まぁた寧々ってよぅ……付き合ってないならお前は、なんで名前で呼びあってるんだぁ!」

「それは、色々とあって……」

「色々って何があっ」

「まぁまぁ落ち着け、正樹」

 俺がどう言うかはぐねていると、突然健吾が現れ、正樹くんをなだめた。健吾は、クラスの全員と仲がいい為、正樹はなだめられて声を小さくする。ナイスタイミングっ!俺はそう思いながら健吾を見ると、健吾も一瞬こちらを向いて笑った。どうやら、助けてくれたようだ。そうして、教室を出ていった二人のお陰で、空気は微妙なものになり、俺がとやかく言われることはなかった。それから数日、俺は正樹さんに明らかに嫌われた。根が真面まともな為、悪質ないたずらなどは無く、俺は特に気にしていなかった。だが、正樹はそれが気に入らない様子だった。

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