第14話 篠倉宅
三十分を少し過ぎた頃、篠倉さんの家から連絡があり、俺達は家へと向かった。十分ほど歩いて着いた家は、少し大きな一軒家だった。ピンポーンとチャイムを鳴らすと、すぐに反応があり、扉が開かれた。
「いらっしゃい、寧々ちゃん。それと……」
「佐久良優斗です」
「佐久良くんね、どうぞ中に入ってください」
「あ、はい……」
俺は佐久良と呼ばれたことに微妙に顔をしかめながら、寧々と共に中に入った。家の中も特に変わった事は無く、一般の家であった。
「それで、彩の事でしたか?何を話せばいいですか?」
すんなりと篠倉さんの話に移った事に、失礼ながらも驚いていると、寧々が話し始めた。
「彩が死んでしまう前に何か不自然なことはありませんでしたか?」
「そうねぇ……関係ないかも知れないけど、一ヵ月前から少し情緒が不安定だったわね」
「一ヵ月前……分かりました。後、彩が書いていた日記を貸していただけませんか?」
「えぇ、良いわよ」
スムーズに進んでいく話に、俺はぼぅっとしながら聞いていた。
「これが日記よ、どうぞ」
「ありがとうございます」
寧々が日記を差し出され、それを受取ろうと手に取るが、篠倉さんの母親は手を離さなかった。
「ねぇ……もう、帰ってしまうの?彩の話、少し、聞かせてほしいわ」
篠倉さんの母親は、寂しそうにそういって涙を流した。
「分かりました。優斗くん、時間大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
そう言うと、リビングの椅子に座ったまま、寧々は話をした。俺もその話に吸い込まれるように聞いてしまっていた。そして数時間、日が傾いて来た頃、玄関の扉が開いて一人の男の子が入ってきた。
「ただいまーって、咲ねーちゃん!確か二時半に来るんじゃなかったのか?」
「お帰り、
「彩の話がまだ終わってないでしょうっ!!!」
陸と呼ばれた男の子に寧々が返答していると、今まで静かだった篠倉さんの母親が叫んだ。心からの叫びだった。
「寧々ちゃん!?寧々ちゃんは今私に彩の話をしているの!他の事をして良いと思っているの!?」
叫び、意味の分からない事の言っている篠倉さんの母親は、ついに暴れ始めた。暴力を振るう先はもちろん寧々であった。
「きゃっ」
「危ないっ!」
寧々に向かって振るわれようとしていた平手打ちを、俺は寧々の前に腕を出すことで防いだ。腕が途端に熱くなり、痛みが走った。きっと本気で叩いたのだろう。
「おまっ、かーちゃん!なんてことを!おい咲ねーちゃんとにーちゃん!早くこっちに!一旦外に出ようぜ!」
陸くんの言葉に俺は「あぁ!」と返答し、硬直している寧々の手を引っ張って外に出る。そして出た瞬間に陸くんが鍵を閉めた。
「ふぅー。とりあえずこれで安心だと思う。咲ねーちゃんとにーちゃん大丈夫か?」
「え、えぇ」
「あぁ」
陸くんの言葉に俺達は一安心し、無事を伝えた。
「にーちゃんはぶたれてたけど、痛いか?」
「あぁ、微妙にヒリヒリが残ってる。だけど、跡が付いているだけで大丈夫だ」
俺の腕に大きく平手打ちの紅葉痕が付いており、少し腫れあがっていたが、今のところ特に痛くはなかった。「そっか、なら良かった」と陸くんも安心していると、硬直していた寧々の思考が少しずつ動き出した。
「跡……?あっ!優斗くん大丈夫ですか!?」
突然寧々が大声で俺を
「咲ねーちゃん!駐車場で大きい声出すなよ!周りのめいわくだろ!?」
「でもっ!……ううん、ごめんなさい。突然の事で頭が働いていませんでした。陸くんも優斗くんもごめんなさい」
「まぁ、わかればいいんだよ。なっ、にーちゃん?」
「あぁ」
俺が陸くんの言葉に同調するが、寧々はまだ申し訳なさそうにしている。
「あの、優斗くん……腕、本当に大丈夫ですか?」
「あぁ、さっきも言ったが、今は全然痛くない。それよりも寧々は?怪我はしてないか?」
「はい……」
「なら良かった」
俺はそのことだけを確認すると、陸くんに話しかけた。
「助けてくれてありがとう。質問して良いか?君の母親はいつからあぁなってしまったんだい?」
分かりきった事かも知れないが、俺が念のため質問すると、陸くんは溜め息をついて言った。
「そんなの決まってるだろう?彩ねーちゃんが死んじゃってからだよ。咲ねーちゃん達とも彩ねーちゃんの話をしに来たんだろ?彩ねーちゃんの日記持ってるし」
陸くんの言葉に、俺達は頷いた。
「かーちゃんは彩ねーちゃんの話をされると彩ねーちゃんで頭がいっぱいになっちゃうんだ。それで話を妨害したらあぁなる……って事は咲ねーちゃん達二時半ぐらいからずっと話をしてたのか!?よく聞いたら咲ねーちゃんの声少しかれてるし。にーちゃん、さっきは守っててかっこいいと思ったけど、止めてやれよ。俺が帰ってこなかったらかーちゃん一生聞き続けるぞ、たぶん」
そう言われて俺も確かにと思った。寧々の話は、当たり前だが俺の知らないことが多く、もしかしたら犯人のヒントになるかもしれないと聞き入ってしまっていた。
「確かに止めるべきだった。寧々、ごめん」
俺が頭を下げてそういうと、寧々は焦ったように言った。
「良いですよ、私も話したかった所もありましたし、それに、私の事守ってくれましたし……ありがとうございました」
「いや、でも早めに止めておけばああならなかったかもしれないし……」
「もぅ!咲ねーちゃん達!それは後でやってくれ!……もう家には用無いか?」
応酬が始まりそうだった俺達を陸くんが止め、家の事を聞かれたので、もう特に用がなかった俺達は頷く。
「じゃあもう帰った方が良いよ。もしかしたらドア開けるかもしれないし。俺はとーちゃんが帰ってきたら一緒に帰るから」
「それなら、せめてお父さんが帰ってくるまでは……」
「ううん、もう帰ってきてるから大丈夫!とーちゃーん!」
陸くんが大きく手を振る先に、男性が手を振り返していた。
「なっ?ほらだから帰った帰った!」
俺達はそう言われながら押され、仕方なくそのままその場を離れ、細かい話はスマホでと言う事でそれぞれの家に帰った。
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