第12話 土曜日の話(寧々視点)

「ただいまー」

 私が言うと、専業主婦であるお母さんがキッチンがある方向から「おかえりー」と少し大きな声で言った。私は脱いだ靴を整えて、洗面台で手洗いうがいをし、キッチンに向かった。

「お母さん、あたし明日……友達の家に行ってくる」

 お母さんは私が傷付いてしまった事を悲しんでいて、彩の話を避け、極力しないようにしている。その為、私も極力お母さんの前で言わないようにしていた。

「そうなの?京香ちゃん?」

「ううん、佐久良優斗くん」

「優斗……男の子?」

「うん。……ん?どうしたのお母さん?」

 私の言葉を聞くと、お母さんはだんだんニヤニヤと微笑みだした。

「いいえー、寧々が最近明るくなったのは、もしかしてその子のおかげかと思ってねぇ~」

 私はそう言われ、友人からも「明るくなったね」と言われたことを思い出した。

「そう、かも知れない……」

「あら。寧々、もしかしてその子の事好きなの?」

 優斗の事を考えながら、ぼぅっとお母さんの言葉に賛同していたら、突然そんなことを言われ、とても動揺した。

「すっ、すきぃ!?ち、違うよ!私そんなこと思ってないからね!?」

 私が焦って言った言葉はお母さんには逆効果で、その後十分ほど反論していたが、もうお母さんの耳には届いていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る