第5話 追悼と惆悵
奇跡的に、俺と寧々の帰り道は、最後の方まで一緒であった。……という話を最初の方にしたのだが、その後会話が続かない。こちらから話そうにも、会話力と経験値が足りない為、何を話せば良いのかわからない。寧々は寧々で、真剣に何かを迷っている様子であった。察するに、下校を誘った時までは決心がついていたものの、いざ話そうとなると、尻込みしてしまう、そんな感じだろう。気持ちはわかる。話したいことがあっても、それを本当に話すべきなのか悩んでしまう。健吾なんかは、その思考をすっ飛ばして話してしまい、よく他の人に空気が読めてないと言われていた。と、俺の思考が大きく脱線していたそんな時、寧々が口を開いた。
「あの、優斗くんは、『
俺はその発言に、人には分からない程度ではあったが顔をしかめる。その人物は、
「あぁ、覚えてる……」
俺の回答に、寧々は嬉しさ半分悲しさ半分といった表情を見せた。そしてゆっくりと語りだした。
「彩はね、私の親友だったの。小さい頃からずっと一緒で、私は彩が大好きだった。明るくて、元気で、一緒にいるとこっちも明るくなれる、良い子だった」
寧々は虚空を見て、懐かしむように話した。二人がどれだけ仲が良いかや、彼女の性格。その話からは、まるで自殺をした人とは、想像できないような人柄であった。
「彩は、自殺なんてしていないと思う……」
寧々は、俺の思考を見破るような真剣な眼差しでこちらを見て言った。
「えっと。つまり彼女は誰かに殺されたって事?」
寧々が言いたいのはそういう事だろう。寧々はコクリと頷く。
「彩、少し前からちょっと変だったの。笑顔が怖かった。何か焦っているように見えた。何かに怯(おび)えているようにも見えた。気になってどうしたのか聞いてみても、何でもないとしか言ってくれなかった。でも絶対に何か
そう言って、彼女は顔を伏る。俺は、そんな寧々に話しかけた。
「それが、彼女が自殺でないと思う理由?でもそれだけじゃまだ彼女が自殺した可能性は高い」
そう言うと、彼女はフルフルと首を振り、俺の言葉を切って話した。
「彩は、ずっとそばにいてくれるって言ってくれたの。寧々のことは私が守ってあげるって。彩、私との約束破ったことないの。……それにね。彩って本当はすごく怖がりな子で、自殺ができるような子じゃないのよ。たとえ、何かに脅されたとしても、自殺はできないと思う」
「そっか……」
寧々は多分、彼女が自殺をしたとは微塵たりとも思ってないのだろう。再び顔を上げた寧々の眼は、焦っているようにも見えた。もう後が無い、そう思っているようにも見えた。
そして、ふと気になったことを聞いてみた。
「えっと、そのことをなんで俺に?」
俺が聞くと、寧々は夕日のような笑顔を向け
「それは優斗くんが
と言った。俺はその意味をよく理解できなかったが、寧々には深い意味があるのだと思った。
「みんな上辺では大丈夫って言うんだけど、どこかで私や自分を彩から、あの中庭から遠ざけようとするの。でもあなたはあの中庭にいた。彩のことを普通に聞いてくれた。だからっていう理由じゃ、ダメかな?」
俺は「それでいい」といった。よくわからないが、俺の行動は、寧々にとって、自身の内に秘めていることを明かしても良いと思うほどのことをしていたらしい。そう考えていたころには、もう寧々の顔はいつもの顔に戻っていた。
いや、少し顔が赤かったかもしれない。
「そっか。それで、えっと……お願いします。私と、犯人を探すの、手伝ってもらえないでしょうか」
恥ずかしさと決意を織り交ぜた表情をしながら、頭を下げる寧々。そういわれることは大体予想していた。話の流れで、大体察することが出来たからだ。俺に頼む要素はあの中庭にいたこと(なんとなくだった)、普通の顔をして、彼女の話を聞いた。この二つだけである。事件の話をするだけでも、思いきっていると思ったが、本当に犯人探しの手伝いを依頼された。寧々にとってあの二つは、とても重要なことだったのだろう。ふと、寧々の見せた焦燥の表情を思い出した。放っておけない、そう思った。そして俺は、こう答えた。
「いや、断る」
俺はそう言うと、寧々は目を見開き、そのあとすぐに少し悲しそうに笑って「そっか」と言った。そこからは特に会話もなく、別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます