第42話 僕はまだ猟奇的な彼女を婚約者と認めた訳ではない!

 次の日から藤咲さんは、前と同じように名前を藤村に変えて登校するようになった。

 立花さんは藤咲さんが学園に戻ってきたのが余程嬉しかったのか、涙を流して喜んでいた。


 二人は前と変わらず仲良くやっている。

 僕はといえば、立花さんとはあんな感じで別れたし、藤咲さんとはあれ以来なんの進展があるわけでも無く、逆に二人と距離が出来てしまった気がする。


 そんな僕に立花さんが放課後、屋上に来て欲しいと言ってきた。


 何の話だろうか?


 放課後、僕は立花さんの話を予想する事も出来ずに屋上への階段を上がっていく。

 屋上に出る扉を開くとそこに立花さんが立っていた。


「ごめん。待たせたかな?」

「ううん。私も今来たところ」


 屋上の風に吹かれる立花さんは、いつもと変わらずおとなしいイメージの可愛い制服姿だ。こんな姿を見るとつい、僕しか知らない、私服の活動的な立花さんの姿を思い出してしまう。

 そんな立花さんの口から思いもかけない言葉が出てきた。


「ごめんなさい。俊一君!」

「えっ、ちょっ、待って! ご、ごめん、何がなんだか分からないんだけど……僕が立花さんに悪い事したのは分かるんだけど、何故立花さんが僕に謝るの?」

「実は…………」


 立花さんはあの初デートの日のことを話し始めた。


 藤咲さんの僕に対する気持ちはずっと変わってなかったこと。


 僕の気持ちをハッキリさせるためには、立花さんが告白するしかないって、健がアドバイスしていたこと。


 抜けがけはイヤだったので、デートする日時や待ち合わせ場所などを藤咲さんに教えていたこと。


  考えてみれば、偶然にしては出来過ぎだよな。しかし、まさか、健まで絡んでるとは……。


「でも、これだけは誤解しないで欲しい! 坂口君から言われて告白した訳じゃないよ! 私は本当に優しい俊一君の事が好きで告白したの! それは本当だから!」

「うん、ありがとう。もちろん信じてるよ」


「でも、やっぱりうまくいかなかったね。もしかしたら私が……って思ったんだけどね」

「立花さん……」


バアァァァーーン!


 しんみりした空気をぶち破るように屋上の扉が開けられる。


「やっぱりここにいたのね!」


 開いた扉の前に立っていたのは藤咲さんだった。

 藤咲さんはそのまま僕の前まで走ってくる。


「えっ、えっ、なに?」

「このおぉぉーーっ! 浮気者!!」


 思いっきり振りかぶって僕の右頬にグーパンチ一閃。


 バゴォォォォォォーーーーン!!!


「たかちゃん!」

「まぁ、そんなに驚く事でもないでしょ?」


 藤咲さんは立花さんにウインクしながらにっこりと笑う。


 いやいや、十分に驚く事なんですけど。

 2メートル位殴り飛ばさた僕は、頬をさすりながら二人を見る。


 藤咲さんは立花さんに小声で何か話していた。

 そして、藤咲さんが僕に向かって「俊君……悪いんだけど、あかちゃんと2人だけで話したい事があるから教室に戻っていて」と言ってくる。


 まあ、そう言われては二人の邪魔になるだけなので、僕は言われた通りに教室に戻って、誰もいなくなった教室で藤咲さん達を待つ。


 しばらくすると、藤咲さんと立花さんが戻ってきた。二人はニコニコしながら僕の方に歩み寄ってくる。


「あぁ〜、そういえばお腹が空いたわね。どっか寄って行きましょうよ? 私はこの前、四人で食べたハンバーガーがまた食べたいわね〜」


 藤咲さんは僕が教室で二人を待っていたことなんてお構い無しって感じだ。まあ確かにお腹が空いているのは事実ではあるのだけれど。


「でも、私はファミレスの方がゆっくり出来ていいと思うんだけど……」


 立花さんが珍しく、藤咲さん同調せずに自分の意見を主張してきた。


 ハンバーガーとファミレスか〜。どっちも捨てがたいな〜。


 ん? 何やら二人から視線を感じる。


「な、何かな?」


 僕の左腕を抱き寄せる藤咲さん。

 僕の右腕を抱き寄せる立花さん。

 2人から密着されてしまった。


「な、何? いきなりどうしたの?」


 僕は訳が分からず戸惑ってしまう。


「俊君は何も気にしないでいいのよ。私達がしたいようにするだけだから」

「はい?」


「うん。ありがとう。あかちゃん」

「本当に気にしないで、だってフェアなやり方じゃないし、それに私達はまだ高校生……時間はあるもの」


二人はお互いに顔を見合わせて微笑みあっている。当の本人である僕は何がなんだか分からない。


「いや、すごく気になるよ。何がどうなって……」


 聞こうとしたら、藤咲さんに頬を平手で思いっきり叩かれる。


「うわっ! いった〜〜〜〜っ!」

「つべこべ言わず私に従いなさい! 貴方は私の婚約者でしょ!」


 いやいやいや、僕はまだ、こんな猟奇的な彼女を婚約者と認めた訳ではないからね!

 頬を押さえながら強がりを言ってみたりする。


 そして、僕の左右の腕にいる、藤咲さんと立花さんは顔を見合わせ、いたずらっ娘のような表情で僕に聞いてくる。


『ねえ、どっちにするの?』

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僕はまだ猟奇的な彼女を婚約者と認めた訳ではない! ワイルドベリー @tuka_you

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