第1章 3話少年の罪と少女の記憶


「じゃっ早速出発よ!グリ!」

「ギャオ!」

エルピスはモロスの手を引き無理やりモロスを立ち上がらせる。当然のことながらいきなり旅のお供に指名されたモロスはその手を振りほどき反抗の意思を示す。それは明らかな拒絶であり、その中にはモロス本人にしかわからない優しさがあった。

「お前・・ふざけているのか?」

しかしモロスは自分と少女と関わらせないようと努力しているが、この軽率な行動の能天気な少女には流石に頭にきたらしく怒りをあらわにする。しかし、モロスも相手の態度が気に入らないからと言う理由だけではここまで怒らない。その怒りには明確な理由があり、この世界に住む人間なら誰でもわかるはずのことだった。

「モロス・タナトスだぞ?これを聞いて何も思わないのか!?」

モロス・タナトスかつて人間の世界で語り継がれた神話に出てくる2人の神の名前を組み合わせたこの名前、1人は死の定業と言われた神であり、もう1人は死の擬人化と言われた神である。その名の通りこの名前は死と深く関係している名前であり、この世界では『罪の名』として有名である。この世界ではこの名前を殺人を犯した者に与えられる。よってこの名前を持った者には誰も近づかず周りから人が去って行く。人々はこの孤独に罪の意識を重ね合わせ反省する。孤独の時間は人を殺した数で決まり、1人なら一年、10人なら10年と言ったところだ。そしてこの少年は600年間罪の名を背負い続けている。

「?何も思わないけど」

しかしこの少女はその名を聞いても怯えず、この場から立ち去ろうとしない。その光景は常人からは理解できない光景であり、少女の異常な人格を物語る光景だった。しかし実際はこの少女は全く持って普通の人格であり24時間観察しても異常性などかけらも感じられないような純白な少女だった。それでもこの反応はおかしい。その反応にも理由があった。今ふと思ったがこの世の全ての事には理由があるのだろう。意味のない事はあれど、理由の無い事はない・・のかも知れない。まぁそんな事をタラタラと述べる私はただの凡人であり、この行動にも理由があるのだろう。ならばこの2人には期待しても良いと思う。この2人は他の人間とは違い特異な人間だ、理由の無い行動をするかも知れない、こんな事は一つの例えで2人はこれから旅の中で常人には理解できないような事をしでかすかも知れない。そしてこの少女はすでに凡人からはかけ離れた生命力、判断力でここまで生き延びていける。どう言うことか?少女は歴戦の勇者でも無く、強力な呪いを操るわけでもない。凡人でもそのぐらいいけると思ったお前、それは今までの事を覚えているからできているだけだ。そう少女には記憶が自分の名前と喋り方ぐらいしかない。

「あ、実は私記憶消失なんだ!だからもし知らない間に地雷踏んでたらごめん!このよーに」

エルピスは両手を顔の前で合わせながらぺこりと頭を下げる。舌をペロリと出してはにかむ少女の軽い謝罪は危うく一番大切な所を聞き逃してしまいそうな表情だった。

「記憶が・・無い?」

モロス・・いや、名も無き罪人は突然の告白に驚きからか声を出してしまう。人のプライベートに赤の他人が踏み込むのはあまりよろしくないにもかかわらず、まるで興味のあるかのような声を出してしまった名も無き罪人(毎回これを書くのは少しキリが悪い為、以後少年と表す)は仮に自分の過去が知られた事を想像し、少しエルピスに向かって申し訳ない事をしてしまったと思い謝罪をしようとする。

「すまな・・」

「ごめん!最初に言っておけばよかったね、私はとある森の中で目を覚ましてね・・」

まるでそんなこと気にしていないかのように、少年の謝罪など気にせず自分の過去をおおっぴろげにし始める。その姿はまるで聞かれたから嫌々教えるという姿勢ではなく、自分からこの少年に自分の過去を知ってほしいと思っているのではないかと思ってしまうほど生き生きしていた。

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