第1章 2話秘密の呪いと好奇心少女
「あはは!ひゃい丈夫て変なの!」
少女は楽しそうにケラケラと笑う。少年は心配したのにからかわれた事に少し苛立ったのか、少し不機嫌に立ち上がる。
「ギャオ!」
正体不明と生物が吠える様になく、まるで調子に乗っている少女を叱る様な仕草だった。
「あ!そうだグリ!急にどこかに行くから心配したじゃない!私を怒るより先に先に私に言うことがあるんじゃないの?」
少女は反抗する様に声を上げる。しっかりと怒る理由はあるが、その光景は少女が怒られた事に対して逆ギレを起こしている様にしか見えなかった。しかしそんな光景がこの少女と生物の仲の良さを表していた。喧嘩するほど仲が良いという事だ。多分・・
「ギャオ!!」
「うるさいうるさい!!絶対にグリが謝るまで許さないんだから!!」
「ギャオ!!」
「ふんっだ!もう知らない!」
少女が頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。
「ギャオ!」
グリと呼ばれていた生物も向こうを向いてしまう。
そんな側から見れば普通の人なら仲むずましい様にしか見えない可愛い喧嘩を、この場には快く思はない器の小さい少年がいた。
眠気のせいか、もともと機嫌があまりよく心配したのにもかかわらず自分の事をからかいあまつさえ大声で喧嘩を始めだした2人(1人は確実に人間ではない)に腹を立てていた。
「おい」
我慢の限界が来た少年は苛立ちの見える低い声で2人に声をかける。もともと機嫌の悪さが滲み出る声だったのだが、長らく人と喋っていないせいかその声は先程から吹き続ける風に流されそうなほど小さな声だったが、そっぽを向きつつも互いの文句をぶつぶつ言いあっている2人を黙らせるには十分な声だった。
声を聞き黙り切った2人は顔を引きつらせながら少年の方を向く。
「あぁ・・ごめん!ごめんなさい!!うちのグリのが迷惑をかけて!」
少女は掠れ切った声を出した後、頭をペコペコ下げながら謝る。その姿は子供っぽく何処か責める気になれない光景だった。
「ギャオゥ・・」
こちらも恐らく原因を少女に押し付けながら謝っているのだろう。明らかにしょんぼりしているが、その目線はチラチラと少女を捉えている。
「はぁ・・」
その光景を見て、少年はため息をつく。あまりにも2人が子供っぽいので苛立ちもおさ待ったのか。
「もういい、顔上げろ」
あっさりと許してもらえた2人は少し安堵の表情を浮かべながら顔を上げる。しかし少年の顔を見た途端、少女の表情から安堵は失われる。代わりに不思議そうな顔をする。少女は首をかしげると
「あれ?お兄さんさっき死んでなかったけ?」
とど直球な質問をされる。
見られてたのか・・
まずいと思った少年は顔に脂汗を滲ませながら少女に背中を向ける。
「さぁ人違いじゃないかな?」
と必死に少女から逃れるために他人を装う。しかしその行為は誰から見ても嘘だと分かるほど苦しい演技だった。
「嘘だよ!私ちゃんとお兄さんがあの崖から飛び降りる所見てたし」
「それにお兄さんが飛び降りた瞬間グリがこっちに飛んでっちゃったんだ、間違えるはずがないよ」
「ギャオ」
くそっ、この鳥もどきめ・・余計な事しやがって。
少年はどちらかというと馬よりの生物を睨みつける。しかし、少年が言う鳥もどきは少年に睨まれているとは知らず華麗に目線を受け流す。
「実は着地がうまくてね・・」
少年は少女からひたすら逃げ続ける、背中は冷や汗で湿り、顔からは濃い焦りの表情が読み取れる。何故少年が少女をそんなに避けているのかはわからないが、何かを隠しているというのは誰から見てもわかる姿だった。
そんな姿がさらに少女の興味をそそる。
「そんな長い髪の毛があるのにうまく着地できるわけないじゃん。第1あんな飛び降り方したらどんな超人でも魔族でもあの世行きだよ」
少女がさながら名探偵の様に少年を追い詰める。
少年は次の言葉が思い浮かばないのか何も言えない。
先程は調子に乗る少女を叱っていた(様に見えただけで本当はしてなかったのかもしれない)生物は何も言わず銅像の様に堂々と少女の隣に立っている。
くそっ肝心な時に役に立たねぇな!鳥もどき!
少年は追い詰められ何の関係もない生物に心の中で八つ当たりする。
「わかったわ!貴方の呪いのおかげね!」
妙に感の鋭い少女に、少年は成すすべなくその場に倒れこむ。少女は少年の上に遠慮なく乗り、少年を押し倒している様な状態になる。何故そんなに少年の事が気になるのかはわからないが、少女はまるでキスでもするかの様な距離まで顔を近ずけ少年を問い続ける。
「ねぇ何の呪い?教えてくれてもいいでしょー私は決してどんな呪いでも差別したりしないから!」
600年前のあの日、神の落し物と言われる6つの神器がもたらした悲劇。神器の持つ魔力によって全ての人類はその体に何かしらの呪いを宿した。ごく稀に呪いを持たずに生まれてくる人間もいるがすぐに周りの魔力環境に影響され、その身に呪いを宿す。今、この世界で呪いのない人間がいるとすれば、そいつは改造人間か何かだろう。呪いは人それぞれ違い、手から炎を吹き出せるようになる呪いや瞬間移動できるようになる呪いなど、その数は人の数だけあるとも言われている。この呪いのせいで人類同士で呪いの格付けが始まり、差別や呪いを使った事故などが起こるようになった。しかし呪いを使った犯罪はあまり起こらなかった。何故かって?神器がもたらした悲劇は人類への呪いだけでは無かったからだ。厳密に言うと犯罪が起こらなかったのでは無く、犯罪を起こせないの方が正しいだろう。あの日から人類は互いに助け合う事を余儀なくされた。差別などはできたものも犯罪などに手を染める阿呆はいなかった。何故かって?まぁそうなんども焦るな。この事の詳しい話は後でするよ。それでもどうしても気になるそこの君の為にサービス、これだけは言っておこう。仮にそんな阿呆が1人でもいたら、今この大地に生きている人間は1人もいなかっただろうと。
さて少年はまだ口を開かない。呪いなどと言う誰でも持っているものを、ここまでされても頑なにその口を開こうとはしない。
その理由はただ一つ。少年が取り憑かれた呪いは誰かに話す事もままならないような酷く悲しい呪いだからだ。頑なに少年が口を開かないのは少女に自分の呪いのことを教えてはいけないと言う少年の優しさなのだ。
しかし、その優しさも虚しく空回り。少女は頑なに口を開かない少年に対して何かを決意したように顔を少年から遠ざけ頷く。
「貴方楽しい事は好き?」
唐突に湧き出てくる脈絡のない質問。少年は困惑しながらも頷く。
「ま、まぁ楽しくないよりかは楽しい方が好き・・」
そのパッとしない答えに少女は少し顔をしかめるが、すぐに機嫌を取り戻したのか再び何か決意したように頷く。
「よしっ!ちょっとイマイチだけどまぁ合格よ!」
少女が親指をピンと立て右手でグットとしながら満面の笑みで声を上げる。
「私はエルピス!そんでそっちがグリ」
「ギャオ!」
グリが自己紹介適当に済まされたせいか少し声を大きくし鳴く。
突然の自己紹介を終えると少女は黙りこくってしまう。
しばらく、2人の間には静寂が流れる。風の音と草がかすれ合う音だけが耳に入る。
少年が何も言わずにその静寂を感じていると
「ちょっと!何黙りこくってんのよ!私が名前を言ったんだから、貴方も名乗るてのが常識でしょう!」
理不尽な常識を押し付けてくるエルピスに多少困惑はするものも、
「モロス・タナトス」
と真面目に答える。
「モロス・タナトス・・・・ちょっと長いわね・・」
そう言うとエルピスは少し考え込む。人差し指でこめかみのらへんをトントンと叩く。
「モロでいいわ」
あまり良いあだ名が思いつかなかったのかあからさまに適当なあだ名をつけたエルピスは、その明るく自分勝手な性格を裏切らない満面の笑みを顔に浮かべ
「貴方を私のパートナーにするわ!!」
風がさらに強くなり、どこからか飛んできた花びらが宙を舞う。どうやらこの風はまだ止まなく、さらにこれから強くなるらしい。
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