第1章 1話 自殺少年とお嬢様少女+α
すっかり日も落ちきった暗闇の中、たった1人崖の上で危なっかしく黄昏ている少年がいる。目の下に深々とクマを作りその目はどこか虚構を見つめている。顔立ちは凛々しく悪くは無いが頬がやつれ髭の剃り残しも多く見られる、伸び過ぎた爪で引っ掻いたのか顔にミミズ腫れの跡がある。10メートル以上あるであろう崖の下に着きそうな長さの髪の毛に、黄ばみきったボロボロの布切れを身につけた
少年は、明らかに不健康そうで一目で普通では無いとわかる。今にでも消えてしまいそうな雰囲気の少年は、細くかけた三日月を見上げて何かをぶつぶつと囁いている。
突然少年が立ち上がり、なんの躊躇いもなく崖から飛び降りる。この崖はなかなか高く落ちればひとたまりもないだろう。崖の下の草むらの中、そこに血塗れで形もおぼそかな彼の死体が落ちていた。見た人誰もが目を背けたくなるような、残酷な自殺だった。
ガサゴソと草むらが音を立てる。そこには長すぎる髪の毛を邪魔そうにかけ上げた、少年がいた。それは到底信じられない光景だった。そこにはさっき愚かにも自分から命を絶った少年が草むらの中に堂々と立ちすくんでいる。しかし次の瞬間、力無くフラフラと草むらに倒れこむ。再び夜空を見上げた少年は何もかも諦めてしまったような力のこもらない声で呟く。
「また・・ダメだったか」
少年はそのまま目を瞑る。静かに過ぎ行く時間の中、少年は音一つ立てず眠りにつく。草ですら音一つ立てない静寂が流れる。
しかしその静寂を断ち切るガサガサと草が荒らされる音が聞こえる。その音を始まりとして、少年は静寂だけではなくその後の人生も荒らされる事となる。
音が段々と少年の方に近ずいてくる。少年は気にすること無く眠り続ける。
直後、顔を何かに踏まれる。
鳥のような足に踏まれたと思うと、その後ろから馬のような足がのっかかる。寝ている時に鳥が体の上に止まることはよくあるが、馬が乗っかってくる事はほとんどない。いや、このどちらもあの日から600年、一度も経験していない事だが。
600年振りに味わった感覚が今の世界ではあり得ない事だという事を知っている少年は、その重い瞼を開ける。
そこには、前足が鳥のようで後ろ足が馬のような形をした、少年の顔ぐらいの大きさの羽をはやしたなんとも言えない生物が乗っかっていた。
「ギャオ!!」
目を覚ましたところをいきなり吠えられる。飛び散った唾液が目を見開いて呆然としていた少年の顔にかかる。
「くさっ」
無表情な少年にも流石にそれは答えたのか、胸の上に乗っている得体の知れない動物を振り払い後ずさりする。
「ちょっとグリー!どこ行ったのー!」
静かだった草むらに風が吹く。草がざわめき立つ。
突如、甲高い草むらに響きわたった。静かに過ぎていた時間が、途端に騒がしく過ぎ始める。
「あっいた!」
子供のような顔立ちに、長いとも短いとも言えない茶色の髪、場違いな白いドレスに身を包んだ少女はこちらに指を指しながらてけてけとかけてくる。見ているこちらがハラハラする様なぎこちない走り方だが、少女には何故か目で追ってしまう様なオーラがあった。
「いたっ!」
案の定ドレスに足を取られぽてっと可愛らしくこける。
少年はしばらく地面に倒れ込んだ少女を見ていたが、起き上がる気配がしなかったので駆け寄る。後ろからさっきの正体不明の生物も付いてくる。
しかし、少年もその長すぎる髪に足を取られ、その場に倒れこむ。少年は少女と違い、バサッと醜い転び方をする。自分が転んだにも関わらず、相手を心配する声をかける。しかし
「ひゃい丈夫か!?」
口の中に草が生い茂り上手く喋れず噛んでしまう。
「ひゃい丈夫です!」
それを少しからかうように少女が元気よく答える。
「ギャオ!」
転んだ状態のまま顔を上げ互いに言葉を掛け合う少年少女。その光景を横から見守る正体不明の生物。
そんななんとも言えないシュールな光景こそが、後に人類の絶滅を救う2人の英雄が出会った瞬間だった。
草はまだザワザワと音を立て続け ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます