各話の出典と補足説明(1〜6話)

別作品でカメラの話を一通り書いて頭を切り替えられたと思うので、各話のエピソードの出典と、想像で補った所、書いてみたけどまだわからない所などをメモしてゆきたいと思います。新しい情報が得られたらその旨記載し、本編に反映します。


第1話


訓練開始が1939年秋となっていますが、1940年6月末に配属から逆算して「この辺だろう」と想像で設定した時期で、実は根拠はありません。


最初に乗る練習機、デ・ハビラントDH.82タイガー・モスというのは、英軍の初等練習機の定番です。最初は単独飛行までの飛行時間を20時間ぐらいかと思っていたのですが、J.ホウルトン:『戦うスピットファイア』(朝日ソノラマ)の25ページに「最大八時間の同乗飛行を終えて単独飛行が許可されなかった者も同じように訓練飛行を停止させられ」とあり、その上で記述を見直しました(ニュージーランドの訓練の話なのでそのまま英軍には適用できないのではないかと)。


単独飛行で空中に上がって叫ぶシーンは坂井三郎:『大空のサムライ』(光人社)にあったエピソードを参考にしています(坂井氏は「バカヤロウッ!」)。


単独飛行の一連の動作は想像で書いてます。飛行高度等情報が得られたら見直し予定です。


配属された基地から7月9日に南イングランドの別の基地に移動するのはDavid Crook : "Spitfire Pilot: A Personal Account of the Battle of Britain"(以降Crook DFC)の7月8日の記述から(再読して1日ずれていることに気づきましたが、このままとします(苦笑))。


基地の場所は元にした手記が防諜上の理由で伏せられているので、当方も具体的には決めていません。ロンドンとサザンプトンの中間あたりを考えています。


7月10日のフレッド、トーマスの初陣もCrook DFCの7月9日の記述から。早朝前進基地に移動、艦隊をJu87が攻撃、スピットファイアが2,000ft上空から降下したBf110(本文中はMe110)×9機に撃墜されるところ等。


「ブレイク!」や「太陽の方向から」といった通信は想像です。


20mm機関砲は炸裂する弾もあるため、当たると大ダメージですが、戦闘機の尾翼がちぎれ飛ぶことについては想像です。以後の飛行機の飛び方も完全に想像です。


英軍が1小隊(section)3機編成というのはBrian Lane : "Spitfire: The Experiences of a Battle of Britain Fighter Pilot"(以後Lane C.O)で知りました。


第2話


ドルニエを攻撃に行くところは想像です。Bf109(本文中Me109)に襲われて降下して逃げる所も想像です。ここで操縦桿を押してマイナスG機動で攻撃をかわすわけですが、これを書いた時点でマイナスG機動がスピットファイアの弱点というのを忘れていました。「スロットル開度が小さく、短時間だったので燃料供給の問題が露見しなかった」と解釈できなくもないのでそのままとしました。


「ブラックアウトに気をつけろ」は、Arther Gerald Donahue : "Tally-Ho! Yankee in a Spitfire"(以降Donahue DFC)のスピットファイアでの空戦訓練のとき、運動性が高いのでブラックアウトに気をつけなければならない旨書いていることから持ってきました。


以後の数度の出撃のシーンは想像で書いてます。全速で雲の下を飛んで、上昇したらちょうど敵機がいた、というのは意図的に作った山場で、実話でこんなうまい話はないです。


少尉が風邪で地上に居残りになっているのはCrook DFCの9月27日の記述を元にしています。


フレッドの遺体漂着はCrook DFCの記述を元にしています。7月9日にBf110に襲われ未帰還となったGordon氏の遺体が7月25日に漂着し、7月27日に葬儀が行われました。


3話


葬儀のシーンはネットで調べたキリスト教系の葬儀の情報を参考にしています。雨天にしたのはそうでもしないと飛行隊長らの参列が難しいだろうという考えによります。


イングランドのメソジストの教会は質素だというので、それを念頭に置いて書いています。「ステンドグラス」があることにするかどうかはまだ迷い中。プロテスタントの礼拝堂に「祭壇」はないとの情報もありますが(石黒マリーローズ:『キリスト教文化の常識』(講談社現代新書))、十字架だけがあるとしても素朴に「祭壇」と表現できると思い記述を変えていません。


教会の前の東屋ですが、Google Earthのストリートビューでイングランドの教会の一つに東屋があるのを確認し、そういう設定にしました。


喫煙シーンが随所にありますが、1940年の成人男子は煙草を吸うのが常識なのでそうしてます。私自身は非喫煙者です。


4話


前進基地に移動するのは3人の著作いずれも。タキシング時にジグザグに進むのは推測で書いて、ちょっと前に動画でも確認しました。


スピットファイアMk.IのマーリンIIIエンジンは1段1速過給器で高高度性能は高くありません。過給器を10,000ftあたりで動作させているのは低空ではノッキングするためですが、英国はアメリカから100オクタンの燃料を供給されていたので、実際はもう少し低い高度でも過給器が使えたはずで、出力も1030馬力を上回っていたはずです。


11機で離陸し、さらに1機が不具合で離脱、単機になったノーマンをトーマスが援護、というところは、アニメ『荒野のコトブキ飛行隊』の放送時にネットで「戦闘機は2機が最低単位」という話を聞いて思いついた展開です。


着陸のときの失速速度とフラップの話はLane C.Oの本から。ただし、フラップは96mphを93mphにするたった3mphの効果より、機体の抵抗を増やして効果時の速度を制御しやすくするという記述は私が推定で追加しました。着陸アプローチ角は3°とか言われますが、勾配にすると約5%です。フラップ無しでは5%の坂を自転車で降りるようなものですから、スプリットフラップは高揚力装置というよりむしろブレーキだと思います。


8月4日の午後の戦闘は概ね同日のDonahue DFCの同日の記述からです。レーダー管制との交信もほぼ直訳です。


「タリホー」の用語は「視認した」と「攻撃開始」の2通りの意味がありますが、BOBでは基本「攻撃開始」の合図のようです。


Donahue DFCの本では、「タリホー」の後、隊長が指示する敵機ではなく、彼だけが発見した別のBf109を攻撃しました。


なので、会敵の部分は当方で違う内容にしています。


5話


4話が書いている間に4000字を超えたので分割しました。


copyが「了解」を意味することはアニメ『プラネテス』以来知っているのですが、実はBOB時点で使われているか確信はなく、調査次第でただの「了解」に変わるかもしれません。また、「ラジャー」はもう少し後にできた言葉だそうです。


Bf109がスラットを出した状態で操縦不能に陥り失速→不意自転に陥るのはLane C.Oの9月14日の記述から。


Bf109がマイナスG機動で逃げるのは対スピットファイアでよく行われた機動で、スピットファイアがそれを追いかけるとキャブレターが「息をついてしまう」というのはよく知られた弱点です。


Bf109のDB601エンジンは筒内直接燃料噴射なのでマイナスGの影響を受けません。


「スピットファイアに可能な上昇反転は、109がやると失速する」というセリフは機体性能から推測し、マーティン・ケイディン:『ドッグファイト』という小説に<P-40は零戦を追って上昇反転をすると失速する>という記述があったのを思い出して書きました。


カミルが損傷した機体で帰ってきたのはDonahue DFCの機体が同様に被弾・損傷したエピソードをここに当てはめています。氏はドイツ軍の囮と知らずに深追いして待ち構えた109から20mmをくらい、奇跡的に生還しました。カミルというキャラクターを考えたとき、このエピソードを使うしかない、と思いました。


整備員の士官がパイロットを叱るシーンは創作です。


6話はDonahue DFCの8月8の記述をベースにしてます。早朝の前進基地への移動。毛布が配られてうたた寝。6機だけで離陸。上空から30機(!)の109に襲われる。109と巴戦になって後ろを取って撃墜。


もちろん、記述は独自に書いてますが、上記のエピソードは拝借しています。


海峡を商船と護衛の駆逐艦の船団が移動、というのはCrook DFCの同日の記述にあり、他の資料でも確認しました。状況的に海峡の港の商船が大西洋に出ようとしていると推定して、西行きと書いてます。


目の前を飛んでる109を狙おうとしたら他の機体に先を越される、というのはCrook DFCの本にあったシーンで、発見した敵に向け反転して降下してる間に別の部隊のハリケーンが射撃して撃墜したとあります。


巴戦は最初は速度があるのでブラックアウトの限界までGをかけられます。しかし空気抵抗が大きくなるので速度がすぐに落ちます。敵味方互いに旋回しながら高度を落として速度を補いますが、巴戦の後半では旋回の限界を決めるのは失速ではと推測して、記述をそのようにしています。空戦フラップが効くのもこういうときです。


マーリンエンジンの非常馬力はLane C.Oの本に5分間だけ、1400馬力とあります。Donahue DFCの本では普通に上昇するのに使っています。英語のwikipediaのマーリンエンジンの項にも書かれていて、どうも5分過ぎたら壊れる、というものでもなく、着陸してから報告すればいい、程度のものだったようです。


非常と言う割に常用されていたらしいですが、これも100オクタンの燃料が使えたからこそかもしれません。


Bf109は主翼を3箇所のピンとボルトで胴体に固定していますので、そのどれかを破壊すれば翼は折れます。死角となる下から射撃し、引張力がかかっている主翼の下側を破壊して撃墜するという戦法は、坂井三郎:『零戦の最後』(講談社)173ページの「Bの型」。なお、坂井氏は「私はBの型でよく撃墜した」と書いてあるものの、『大空のサムライ』など読むと特にそういう印象はないので検証が要るかもしれません。


曳光弾に対して反対側に逃げるという記述にしていますが、後で、曳光弾の方に旋回するほうが弾も当たらないし敵からも確実に逃げられると知りました。次の作品に反映したいですね。


7話以降は次の話にて。

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