10

「あ、ジェニー」


 ニューヨーク。

 本当にせっかちな尚斗さんは…


「愛美ちゃんの短大卒業まで待てません。すぐ連れて行きたいんです」


 うちの両親にそう言って。

 結局…帰国を一週間ずらして、あたしを連れ去った。


 そして、二人の生活が始まった。



「マナミ!?どうしたの!?日本に帰ったんじゃ…」


 ジェニーは、あたしの横にいる尚斗さんに気付いて、あんぐりと口を開ける。


「結婚したの」


「えっ!?じゃ…フィアンセって…」


「尚斗さん、留学した時に隣の席だったジェニーよ」


 あたしがジェニーを紹介すると。


「ああ、あのわずか三ヶ月の」


 尚斗さんは笑った。


「は…はじめまして」


 ジェニーが手を差し伸べる。


「よろしく。愛美の手料理を食べにおいで」


 尚斗さんが、優しく笑う。

 目を丸くしたままのジェニーに手を振って、あたし達は歩き出す。

 左の肩には、尚斗さんの手。

 ずっと思い描いてた幸せが、あたしにもやってきた。



 * * *


「こんばんは」


「あっ、るーさん、まー…マノンさん、いらっしゃい」


「マノンさんって何やねん。まーくんでええって」


「いや…Deep Redがこんなに売れてるって知らなかったから…」


「ぶっ。おまえ、そのバンドの鍵盤奏者と結婚したやろ」


「そうだけど~…」



 本当に。

 Deep Redは、あたしの予想以上に旋風を巻き起こしてたらしくて。

 ただでさえ、尚斗さんと結婚したって事、夢みたいなのに…世界のDeep Redって言われてるなんて…



「るーさん、英語バッチリ?」


「日常会話は困ってないかなあ…」


「すごい…」


「愛美ちゃん、ハビナスに留学してたから、英会話出来るんでしょ?」


 るーさんの言葉に、尚斗さんが目を細めた。


「え…?留学…してたのよね…?」


「お…悪い悪い。言うてなかったな。ナオトに振られた思うて三ヶ月で帰国したんやったっけ?」


「なっ何でそんな話になってるのー!?」


「あれ?ちゃうんか?ナッキーが…」


「もー!!ナッキーさんたらー!!」


「ぐっ…俺はナッキーじゃないぞ!!」


 尚斗さんの胸をポカポカと叩きながら、あたしは笑う。

 何がどうって言われてても…今が幸せなら…

 どうでもいっか。



「痛いって」


 尚斗さんに腕を取られる。


「そんなに強く叩いてないもん」


「俺はデリケートなの」


 少し抱き合うみたいな形で言い合ってると。


「あー、はいはい。新婚って、きっつ。るー、はよ飯食って帰って、俺らは家でイチャイチャしよな?」


 世界のDeep Redのギタリストが、すごくニヤけた顔でそう言った。

 確か、結婚して三年。

 まだまだ新婚って雰囲気の二人。

 それを見てると…自分の幸せにプラスされて…泣きたくなるほどの幸せになった。



 許嫁って言われて、尚斗さんに恋をしたあの日から、九年。

 …あたしの恋は…


 まだまだ続く。



 4th 完

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いつか出逢ったあなた 4th ヒカリ @gogohikari

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