情報未公開とかいうVRゲームのテスターに選ばれたんだが、胡散臭さプンプンww けど面白そうだがら、全力で楽しむわww ……は? 待って? そのゲームは未来のゲームだって? そりゃ、まじ卍なんだがww

ガブガブ

春色 桃香という少女

 ――只今の時刻は二十二時五十八分。


 この時私は、とある草原をひた走っていた。


 ちなみにここは現実世界


 ここは仮想空間……所謂いわゆるVRゲームの中の景色である。


 そこで私は、あるモンスターをひたすらに狩っていた。



「モキュキュ!」



 そんな可愛らしい声と共に、水色の液状モンスターである”スライム”が、次々に草原上に湧き出てくる。



「――」



 私は、その”スライム”を出現した瞬間にほふっていく。


 それと同時に、視界の右上に映る値がどんどん上昇していく。


 その数字の変化は一切止まることはなかった。


 ……いや、それは止まらないのではない。


 私の所作が速すぎて、数字の変動が追いついていないのだ。


 つまり、今私の目に入るその数値は、の記録に過ぎない。


 恐らく、本当の値はこの数字よりも二、三万程高いであろう。



「――」



 画面の左上に映るデジタル時計が一分進み、二十二時五十九分を指す。


 チラリと私は、視界の右上に並ぶ数列を見る。



(私が一位なのは当然として、二位とは一万……いや、ラグのことを考えれば、三、四万の差があるわね。……ちょっとやり過ぎた感があるけど、別に良いよね? だってなんだからさ)



 私は、絶対的な勝ちを確信しても尚、最期の最期まで足を止めず、全力で”スライム”を狩り続けた。


 そして、カチリ、と時計がまた進んだ。その瞬間……



『<エデンズ・ガーデン>最期のイベント――<スライム大量発生チュウ!?>のランキングバトル戦……そのえある一位を飾ったのはモモ選手だ〜〜〜ッ!!!!! コングラチュレーション!!!!!』



 大量のファンファーレ、花吹雪、クラッカーが私の眼前を覆い尽くす。


 それがひとしきり静まると、私の周囲に、カメラを頭に乗せた鳥のNPCモンスター”ライブバード”が十匹程群がってきた。


 ふと、画面右にある生配信アイコンを触ってみると、全ての生放送チャンネルが私の姿を捉えていた。



『おめでと〜!』

『やっぱクイーンだわ笑』

『モモの無双は圧巻の一言に尽きる……』



 エトセトラ……エトセトラ……。


 全ての生配信チャンネル上に流れるコメントはほぼ全て、私の栄光を絶賛するものであった。


 それらに目を通していると、一匹の”ライブバード”が私に近づいてきた。


 その”ライブバード”を通じ、誰かが私に声を掛けてきた。



「改めておめでとうございます! モモさん!」


「えっと……貴方はもしかして<エデンズ・ガーデン>のマスコットキャラクター、ノアちゃん?」


「はい、そうですよ!」



 私の問いに、カメラ越しから元気な返事をするノアちゃん。


 ……このノアちゃんというのは、当ゲーム<エデンズ・ガーデン>の道先案内を務めるNPCキャラクターだ。


 実はこのノアちゃんはそんじょそこらのNPCキャラクターではない。


 彼女は、AI機能を備えた『物を考えれられるNPCキャラクター』なのである。



「――そんなノアちゃんがどうしてここに? ノアちゃんは基本的に、新規ユーザーさん向けに手助けをする事以外は出来ない筈だったけど?」


「えへん! 聞いてください! 実は私、今日だけはその役割を超えて自由に動けるんです! ……だから、私は<エデンズ・ガーデン>最期のお祭りを最高に盛り上げようと、一つの生配信チャンネルを独占し、朝から晩まで皆様の活躍振りを実況中継でお送りしていたのです!」



 そうなのか? と思った私は横目で、現在配信を行っている動画を確認する。


 すると、来場者数及びにコメント数が一番多いチャンネルはこのノアちゃんが配信しているものであることを知った。



「……じゃあもしや、私の動向を常に追っていた”ライブバード”は――」


「はいッ! 私のです!」



 どうやら、私の動向はずっと生放送で垂れ流しにされていたらしい。



「なんかむずがゆいけど、私のことを注目してくれてたんだね、ありがとッ!」


「それは当然ですよ! だってモモさんは名実共に、このゲームにおけるトッププレイヤーなのですから!」


「それは大袈裟だよ。ただの暇が有り余った古参なだけ」


「そう謙遜けんそんなさらないで下さい! そんな人は、<エデンズ・ガーデン>最期の大イベント――サービス開始時からサービス終了までに開かれたイベントを全てぶっ通す<オールイベント網羅戦>でオール一位の戦績を取れる訳がありませんから!」


「たまたまだよ、たまたま……」



 私のその言葉に、視界の脇で流していたノアちゃんが配信する動画のコメントから総ツッコミを受ける。



『ちょっとは自覚しろし笑』

『この期に及んで己が力を認めぬとはけしからん』

『そういうの逆に周囲をあおるからことになっから、ほどほどにな〜』



 ……そう言われてしまったら仕方がない。


 私は最大級のドヤ顔でダブルピースを決め込む。



「皆のお陰で、最期のイベントを全力で走り切れたわーッ! 熱い応援ありがと〜ッ!」


 

 私の言葉に、生配信のコメントが湧き上がる。


 ……しかし、そんな楽しげな雰囲気はすぐに薄れ――



「けど、もうここでの生活も出来なくなっちゃうね…… 」



 そう、私のこの言葉通り、このVRゲーム――<エデンズ・ガーデン>は今日限りでサービスを完全終了するのである。



「私にとって、<エデンズ・ガーデン>は最高の居場所だった。それが無くなってしまうのはとても悲しい……」



 私のこのセリフを封切りに、コメント欄が俗に言うお通夜状態になってしまう。



『サービス終わるって聞いた時から始めたけど、以外と楽しかったな〜……』

『↑よくこのゲーム特有のチープさに耐えられたなw』

『いや、逆に新鮮だったぞ? もうサービスも五年続いてて、他の最新型ゲームと比べてグラもシステムも時代遅れだったけど、古き良きレトロ感があって、のんびりと続けられちゃった』

『私は、モモの活躍に吊られて始めた組!』

『Me Too! ワタシもモモチャンのスゴさカンジて、このゲームハジメった!』

『唐突の外人参戦で草wwwww』

『いや、話によればモモのお陰で外国鯖が出来上がったって話だぜ?』

『何それ凄!』

『……今思うと、このゲームはモモに支えられた感あるよな』

『それな。多分俺、モモが居なかったらこのゲーム続けられなかったかもしれない』

『同感。<エデンズ・ガーデン>=モモの活躍劇だったって言えるよな。モモのチート級の力を見るためだけにログインしてたまである』



 そのようなコメントを見た私はふと、ある違和感に駆られる。


 あれ? いつの間にかゲームの思い出話が私の話題にすり替わってない?


 私は、私のことをたたえるコメントに目を通し始める。



『モモが各ボス戦の行動パターンを探ってくれたお陰で攻略が超楽になったよな?』

『そうそう!』

『新規実装ボスの弱点とかもすぐに分析してくれて、歩くwikiとか言われてたな』

『あとモモが投稿した攻略動画は興味深かったよな。……悪い意味で』

『うんうん、あの動きや立ち回りはレベルの低い俺等には無理ゲーで、動画のコメが炎上したよな』



 確かに、そういうこともあったわね! ……けどそれ、今世紀最大のやらかしだから、あまり言わないでくれないかな!?


 そんな時であった。



『そんなモモに一つ質問、良いっすか〜?』



 そのコメントが流れた瞬間、私の目の前にあるメールが送信される。


 それは質問箱メールと呼ばれるもので、個人に対し、問いを投げかけられるコミュニケーション機能であった。



『モモは次、なんのゲームをやるつもりなんですか?』



 私はその返答を記入し、返信先を送信者からプレイヤー全員に設定し直し、それを提示する。



「特に決めてない」



 私がそう返すと、各ユーザーがそれぞれオススメのVRゲームを一堂に挙げ始める。


 私は慌てて自分の意見を述べる。



「ちょいちょいちょ〜い! 待たれい待たれい! ちょっと今は新しいVRゲームを触る元気はない。少し休ませて!」



 だが、この私の意見を皆は――



『ずっとこのゲームに潜り続けてたモモが休むだってよ笑笑』

『ニートでゲーオタでおっさんなモモからゲームを取ったら何が残るんだ?』



 はぁ!? ゲーオタなのは否定しないけど、ニートでおっさんじゃないんだが!?


 私は十五歳のピチピチ現役女子高生なのだが?


 ……と言っても、その個人情報をみだりに書き込むわけにはいかず、あらぬ誤解を解くことはできなかった。



『けどまぁいいんじゃね? モモの人生だし。俺たち無関係者があれこれ言うのも野暮だろう』

『いきなりのお父さん目線乙!』

『モモ、君のお父さんインしてね?』



そんなわけないでしょ?、と私は気楽にコメントを返す。




 ――そんなやり取りを繰り返すこと約四十分。画面上部に赤色で染められた警告の文字が浮かび上がる。



 <残り十分で強制シャットダウンが決行されます。それに伴う脳へのショックを抑える為、事前のログアウトを推奨致します>



 いよいよか〜。そんな気持ちが周囲を包み込む。勿論、それは私も例外ではなかった。


 データの軽量化の為か、周囲の景色は真っ白な空間に様変わりする。


 そこには、最期の刻まで<エデンズ・ガーデン>を楽しもうとする者で溢れかえっていた。


 ――ただ純粋に涙を流す者。


 ――今まで収集したアイテムや装備を最終チェックする者。


 ――誰振り構わず誰とでも自撮り画像を残していく者。


 ――そして……



「楽しい五年間を提供して下さり、ありがとうございましたッ!」



 ゲーム運営会社と、共にゲームを楽しんだ仲間に感謝の意を述べる私。


 このタイミングで、タイムリミットが残り三分を切った。


 すると、この場に居たユーザーのほぼ全員が私を囲む。


 その後彼等は、私の体を持ち上げ、



「「「「「わっしょい! わっしょいッ!」」」」」



 胴上げをする。


 サービス終了まで残り一分。


 ――残り三十秒。


 ――残り十秒。



「すぅー……」 



 私はそのタイミングで、全開まで息を吸い込む。


 ――残り五秒。


 そして全力で腹から声を出す。


 

「お疲れ……」


「「「「「様でしたーーーーー〜〜〜〜ッ!」」」」」



 そのねぎらいの言葉の大合唱で、私の視界は突如として途切れた。



「――うっ……うぅ〜……」



 仮想空間から強制的に追い出された反動で、叩き起こされた様に意識を再起させる私。



つう……ッ! あったま痛〜……」



 ゲーム内でも忠告されて居た様に、強制シャットダウンは脳にショックを与えるものだった。


 ジンジン、と痛む感覚の中、私はVRゲーム用のヘッドギアを取り外す。


 

「はぁ……ロスだわぁ……」



 私は多大な虚無感を感じ、大きな溜息を吐く。



「当分は、<エデンズ・ガーデン>のことを忘れられそうにないな〜……。この気持ちが落ち着くまでは、他のVRゲームに手は付けられないでしょうね」



 未だ喪失感が抜けない私であったが、無意識にだらしない欠伸あくびを漏らしてしまった。



「――ファアァ〜……そういえば、丸一日フルダイブしてたんだっけ……。……そりゃ眠くもなるわ。……明日は学校だから早く……寝な……いと……」



 とても疲れてしまったからか、徐々に徐々に私の意識は遠のいていく。


 そして私は、ぐっすりと深い眠りに就くのであった。 

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