第1章

第1話   白薔薇の魔女ロゼッタ

 ロゼッタのちっちゃい手でも使える、小さな赤色の鍋に、根野菜のみじん切りがブイヨンでぐらぐらと煮込まれている。


「おイモも入れよ~っと」


 畑で採れた芋もナイフで刻んで、まな板から手で鍋に移した。


 隠し味に、摘みたての香草をちぎって入れたら、香り高くて温かいスープができあがる。


「ただいまロゼッタ。わあ、いい匂いね」


 台所に入るなり、姉のローズが胸いっぱいに深呼吸した。


「おかえりローズ。ごはん、もう少しでできるから」


 ロゼッタは今、包丁で鳥のヒナをさばいており、手が放せなかった。


 狭くてごちゃごちゃの台所。


 天井には乾燥した花束や香草の束が下がり、壁に取り付けられたたなには、保存食と調味料の入ったびんがずらりと並んでいる。


 ローズは真っ赤なワンピースのスカートを揺らしながら、台所のテーブルに、今日の戦利品が入った重たい革袋を置くと、封をしているひもを緩めて、中身を一つ一つ取り出して並べた。


 冷たくなった鳥、兎、布にくるんだ瀕死の川魚、それといろんな色のリボンと、ぴんくの抱き枕が一つ。


 まな板のヒナをさばき終わったロゼッタが振り向いて、目を丸くした。


「わあ、ローズすごぉい! 大きいお魚だね~」


「運ぶの大変だったわ~。あ、そうだ、ロゼッタ、今日の分の薬は飲んだ?」


「あ、わすれてた」


 ロゼッタは棚の瓶の一つを手に取り、コルクの蓋を取って虹色の薬を一粒、手の平にのせた。


 魔の森で採れる魔法のを原料に、ローズがいろいろな薬草とすりつぶして作ってくれた丸薬。


 魔力が不安定で魔法が出ないときや、体調不良のときなど、魔女のなんでも薬として重宝されている。


 なんでも薬だから、これを飲み続けていれば、妹にもいつか魔力が定着するだろうとローズは期待していた。


 ロゼッタも早くそうなれる日を待ち、スープの味見のついでに薬を飲み干した。


 熱かった。


 苦悶の表情を浮かべる妹に、姉のローズが苦笑した。


「もう、ちゃんと小川の水で飲みなさいな。私に似てがさつなんだから」


「え~、あの水を飲むのは、ちょっと……」


 ロゼッタは顔が引きつりかけたのを、ほっぺたを掻いてごまかした。


 居間の机には、パンと鶏肉の香草焼きと、温かいスープの入った可愛いスープ皿が二人前。


 椅子を引いて着席し、おそろいの銀色のスプーンを持って、二人向き合って食べ始めた。


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