33 エルフ族

 

新田にった宗次むねつぐだ」



 近づいてくる一人の自衛官。

 彼からゆっくりと差し出された掌は、ボロボロの革手袋に覆われている。

 いや、手だけじゃないな。よく見ると服もボロボロに破れて顔もやつれている様子だ。

 一体何があったんだ?



 俺は少し顔を歪ませながらボロボロの掌を握り返した。

 会釈をしながら。



「よ……よろしくお願いします」

「蓮君だったかな? 他の隊員も紹介させてくれ。彼は副隊長の高橋たかはし久一郎きゅういちろう、彼女は衛生兵の凛堂りんどう愛風あいか、そして彼は……」



 ペラペラと話し出す新田。彼は奥にある自衛官を指差しながら名前を言ってゆく。

 違うだろう、俺が知りたいのはそんな事じゃないんだ。



「ちょっと待って下さい」



 俺の言葉は辺りを静まらせた。

 そうすると、先程まで饒舌じょうぜつに話していた彼も地面に顔を向けた。

 どうやら俺が言いたい事が分かっているようだ。彼は振り向くとゆっくりと語り出した。

 なぜ銃口をこちらに向けたのか……なぜ満身創痍の状態なのかを……。



が現れたんだ。俺達の懐に入り込んだに仲間は……」

「あいつ?」



「そうだ。君は化け物モンスターとは戦ったか?」

「はい。もしかしてあいつって化け物モンスターの事……ですか……」



 俺の質問に自衛官は黙り込んだよ。

 なるほど、そうか。自衛官達も化け物にここまでやられたのか。

 自衛官の仲間も、戦車も、氷華のクラスメイト達も、みんな化け物モンスターにやられたのか。



 俺は自然と拳を握りしめていた。

 悔しいんだ、呪猫カース・キティと戦ってきて分かるからさ。化け物モンスターは笑いながら人間プレイヤーを襲うって……。

 そうやって俺が納得しかけていた時だ。



「……違う」



 この声は、少し離れたところにいる自衛官。

 久一郎きゅういちろうとかいう自衛官の声だ。彼は小さな声で否定する。俺達は化け物モンスターにやられたわけじゃないんだって。



「あんなの化け物モンスターじゃねぇ…………」

「どういう事ですか?」



「待て久一郎。ここからは俺が説明する」



 俺の問いに答えたのは久一郎ではなく新田だった。

 彼は悲しそうな表情で言葉を続けたんだ。まるで仲間達が死んでいく姿を思い出しているかのように。



「あれは……奇妙な化け物モンスターだったよ。姿形は人間に似ていて言葉も喋っていたんだ、今思うとあれはエルフって奴だったのかもしれない――そう。そして、は俺達に気づき襲ってきた」

「戦闘は行われなかったんですか?」



「そうだ。いつもみたいにターン制の戦闘は起きなかった」

「それで……皆さん亡くなったという事ですか」



「ん?」

「え?」



「いや、死んではいないぞ。ただ連れ去られたのだ。その証拠にあいつは俺達の足を狙ってきた。――で、その仲間を取り戻す為に無茶してここまできてるってわけさ」

「死んではいないんですね。良かった……」



「あぁ、そこの氷華さんも仲間を連れ去られたらしい。あいつらに刺された右足を引きずりながら、俺達に追いついてきたんだ」

「そうなのか? 氷華」



「うん。私がもっと注意していればあんな事にならなかったのに……」



 あんなに落ち込んでいる氷華は初めて見る。

 今にも泣きそうな顔を隠そうと視線をそらす彼女、俺はそれを見て困惑していた。

 氷華の姿もそうだが、彼等の言っているあいつとは一体何なのだろうかと俺は頭を捻らせた。

 そうやって俺が考え事をしているとドローミが話しかけてきたんだ。目の前にいる新田に気づかれないほどの小さな声で。



市谷いちがやよ。とは恐らくエルフ族だろう。彼等は化け物モンスターでもなければ、人間プレイヤーでもない。――ただの獣と一緒だ。それに安心しろ、エルフ族は報復を恐れて化け物モンスター側にも人間プレイヤー側にも死者を出すような事は絶対にしない。――ダンジョンに住む、か弱き存在なのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【チートスキル&無限HP!】 あのさ。俺、虐められっ子&ハズレ職業なんだけど……実は地上最強なんですわ。 山口 りんか @h_h_h_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ