32 敵か味方か
⦅ザッザッザッザッザッ!⦆
「ちょ……ちょっと蓮君?」
俺は走った。
目の前に見える人影に向かって……やっと見つけた氷華に向かって……。
足を引きずっている氷華らしき人物や周りにいるのは自衛隊、正直状況がよく分からない。
けどそんな事どうでもいい。
俺は氷華と話したかったんだ、いつもの学校に行く時みたいにバカみたいな話をもう一回したい。
その一心で俺は走ったんだ。
火憐は突然走り出したのを見て驚いているみたいで、後ろから彼女の驚く声が聞こえている。
でもごめんな火憐、今は走らせてくれ。後もう少しで氷華と話せるんだ。
「氷華!!!」
俺はダンジョン内に響くような大声で叫んだ。
これなら氷華達にも聞こえるだろう。視認で相手の顔が分かるくらいだからな。
しかし、俺の声に最初に反応したのは氷華達の周りにいる自衛隊だった。
「
「……またか。総員……構えろ!!」
「「ハッ!!!」」
⦅カチャカチャカチャ⦆
あれ? おかしいな?
なぜか自衛隊が俺に銃口を向けている。もう見えるだろう、俺が人間だってさ。
なのになんで……なんで銃を向けるんだよ。
俺は銃口が怖くて、走るのをやめてゆっくりと歩き出した。まさかとは思うが万が一のためだ。
いや、これだけじゃ足りないかな。俺は手を上げて「敵じゃない」事を示した。
「打たないでくれ! 俺は人間だ!!!」
⦅カチャ……⦆
「止まれ!!!」
「分かった……」
手を上げただけでは足りなかったようだ。
銃口は俺を向いたまま自衛官の恐ろしい声が響く。相当に警戒しているようだ。
鋭い彼らの声は、後方の火憐にも聞こえたらしい。彼女は止まって小さな声で話しかけてきた。
「蓮君これって」
「いや、俺も何が何だか分からないよ。何で人間なのに銃を向けるんだ……」
俺が困惑の表情を浮かべている時、右の手枷が小刻みに動く。
恐らくドローミも異変に気付いたんだろう。小さな声で俺にある提案をしてきたんだ。
ここから逃げようって。
⦅カチャカチャカチャ⦆
「
「…………」
どうする。どうすればいい。
確かに、ここでドローミに頼めば確実に逃げられるだろう。しかし目の前に氷華がいるんだ。
もしこの場から逃げてしまえば、自衛隊に近づく事が難しくなるかもしれない。
そう。あれは、俺がどうすればいいか迷っている時だった。
「蓮!?」
銃口を向ける自衛隊を押しのけて氷華が前に出てきたんだ。どうやら彼女にも俺の声が聞こえていたらしい。
でも、どういう事だ。
彼女の制服はボロボロで、顔に疲労も浮かんでいる。
まるで今の俺みたいな姿だ。
そして、そんな彼女に向かって自衛隊の隊長らしき人物が大声を張り上げていた。
「下がれ! こいつも
「大丈夫、
⦅カチャ……⦆
「うむ……。では、奥の少女はなんだ?」
氷華の言葉に顔をしかめる自衛官。彼は銃口を俺ではなく後ろの火憐に向けた。
真っ直ぐに彼女の脳天を狙っている。
そして、それはやはり恐ろしいのだろう。彼女の荒い息遣いがこちらまで聞こえてくる。
「わ……私は……蓮君の友達で……」
「おい少年。この娘の言葉は真実か?」
「……はい。彼女は俺の友達です」
「そうか……」
「隊長!! 悩まないで下さい! また
「まぁ待て。
部下をなだめ、顎に手をつける自衛官。
しばらくすると彼は、俺と火憐に向かってある事を言ってきた。
正直びっくりしたよ。なんでこのタイミングで?ってさ。
「すまないが二人とも、ステータスを見せてくれないか?
「分かりました」
「わ……分かったわ」
俺と火憐は胸に手を置いて、彼らに自身のステータスを見せた。
なんでこんな事をさせたのか意図が全く理解出来なかったが、従う他なかったんだ。
この言葉に従わなきゃ「撃つぞ」って言われているような雰囲気だったからな。
「ふむ……」
自衛官は、俺達のステータスをマジマジと見つめると呟いた。どうやら信じられたようだ。
「ふむ。
「し……しかし……」
「いいから下ろせ副長!」
「ハッ……分かりました」
⦅カチャ⦆
自衛官達の銃口が下がりきると、隊長らしき人物が前に出てきてこちらに近づいてきた。
そして、申し訳なさそうな顔をしながら自己紹介をしてきたんだ。右手を差し出しながらさ。でも、肩書きが長くて頭に全く入ってこなかったけどね。
「先程の無礼を許してくれ……私は、陸上自衛隊東部方面軍普通科第一中隊の
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