第15話 8月分・2
8月13日 片渕須直さんのツイッターを読んでいたら、こんな気になる言葉が。
「2009年に書いていたTVシリーズの脚本を発掘。全26本中、終わりまで書き上げたもの10本。」
これどう見ても『MM9』のことだよね!
忘れてなかったんだ、片渕さん。
今日は妻と娘が来てくれた。いっしょに昼食を食べる。
家族揃っての食事! 何て久しぶりなんだろう。これまで娘の帰宅が遅い時には、僕がよそで食べてくる日も多かったのたが、今思えば何ともったいないことをしてたんだと思う。
家族でいっしょに食事をするなんて、なんという贅沢な日々だったのか。
もちろん妻にだけ食事作らせはしない。病気で倒れる前、僕は週一ぐらいの割合で晩飯を作っていた。カレーライス、ピラフ、ラーメン、餃子……などなど。ちょくちょく調理間違えて、ひどいものができたけど(笑)。
ああ、退院したらまた料理作ってあげたいな。病み上がりだとしばらくはストップがかかるかもしれないけど、そのうちにね。
そうそう、手料理に限ったことじゃない。近所の中華料理屋や居酒屋をみんなで食べ回るのもいいかもしれない。さすがに毎日外食してたら金がかかってしょうがないけど、一月に一度ぐらいなら、そんなに家計への負担にはならないはず。
ラーメンを食べる予定だったのだが、目をつけていたラーメン屋が満席。しかたなく、隣りのパンケーキの店に入る。
これがもう絶品!
三人で別々のパンケーキを注文して、分け合って食べたのだが、僕はまだナイフを上手く使えない。妻と娘が交互にパンケーキを切り分け、少しずつ僕に食べさせてくれる。
まるで鳥が雛に餌を食べさせているみたいな感じ。妻も娘も笑っている。僕も笑った。
ああ、楽しいなあ。
食後、娘のツイッターで少し心配になったこと。暑さのために熱中症になりかけたという。本人はたいしたことではないかのように語っているが、ほんとに大丈夫なのか。熱中症は死ぬこともあるのに。
もうひとつ気になること。娘はツイッター上でストーカーにしつこくつきまとわれているという。しかも娘のストーカーじゃなく、僕のストーカーだという。僕の作品を読んでいる奴が、娘に興味を抱いてつきまとってくるらしい。
娘は本名ではツイッターをやってないし、父親が小説家だということも書かない。名前も本名だと分からないように工夫している。もちろん僕も娘のツイッターに書き込みはしない。だけどそいつは、何らかの手掛かりから娘のツイッターを探り当て、今は学校への通学路を知ろうとしているらしい。
そういうことをやりそうな変態野郎には心当たりがあるけどな。
とりあえず娘はツイッターに鍵をかけたそうだけど、僕も無視しているわけじゃない。もし違法行為に発展することがあれば、ただちに警察沙汰にするつもりだ。覚悟するように。
終了後、二人は僕の理学療法を見学する。妻は三度目か。
二人が来ているので、張り切って前屈をしたり、非常階段の昇降を頑張って挑戦したり、サイクリングに頑張ったり……妻と娘にいいとこ見せたくて、少しだけいつもより背伸びしてみました。
妻も娘も笑っている。僕もおかしくなった。
やっぱりこの家庭は最高だ!
8月15日 今日は終戦記念日。
ネットでは先日放映された『ゲゲゲの鬼太郎』に文句をつけている奴がいるという。反戦思想が盛り込まれるのが気に食わんらしい。
アホか。原作者の水木しげる氏がどんな半生を歩んできたか知らんのか。
NHK教育の番組『JAPANGLE』。日本の名物を紹介する番組だけど、今日のテーマは「特撮」。いろんな特撮映画や特撮番組のワンシーンが紹介される。
『ゴジラ』や『ウルトラマン』などが登場するのは予想できたが、驚いたのは『デンジマン』のワンシーンが映ったこと(デンジタイガーが爆発の中を走ってくるところ)。『ウルトラマンルーヴ』のワンシーンも。
さらに効果係の人が、いろいろな爆発の中でヒーローがかっこよく立つシーンを再現して見せる。そのヒーローというのが……。
ストレッチマン!
連続爆発やガソリン爆発の中、さっそうと立つストレッチマン。NHKを代表するヒーローと言えばこれだろう。かっこいいなあ。
他にも『バビブベボディ』『ざんねんないきもの事典』など、NHKには面白い教育番組が多い。『キッチン戦隊クックルン』もね。
『にほんごであそぼ』なんて野村萬斎が出てるんだから。
NHK特集『ノモンハン責任なき戦い』を観る。相手を侮って希望的観測に基づく戦争をはじめ、結果的に大敗北で大勢の自軍兵士を死なせても、責任者は責任を取らず、末端の指揮官を自決に追い込む。ああ、やだやだ。こんな戦争してりゃ、負けるのは当然か。
日露戦争で勝っちゃったのがまずかったのかも。あれ以来、「歴史の歯車は日本に都合よく回るもの」という根拠のない自信が日本人の中に染みついたのかもしれない。
8月16日 また妻がくる。今日は外泊の予定を立てて来た!
それによれば、20日の午前11時頃に病院を出て、JRで吹田駅に。駅前でいくつか買い物をして昼食を食べ、家に帰るらしい。
ついに家に帰れる!
1日だけの外泊なもんで、21日には病院に戻らないといけないんだけど。それでもあの家に帰れるというだけで嬉しい。
8月17日 NHKのBSプレミアムで『ブラジルから来た少年』を観る。好きなんだよなー、この映画。アイラ・レヴィンの原作も。
トンデモない発想を見事にまとめ上げた傑作。うーむ、こういう話を書きたいんだけどなあ。
夕方、鋼鉄サンボくんがまた見舞いに来る。今日はジョン・スパークスandトニー・ソーパー『ペンギンになった不思議な鳥』という本を持ってくる。相変わらず変わった本持ってくるなあ。
『チコちゃんに叱られる!』の拡大スペシャル。
お盆の意味は「逆さ吊り」というネタは『詩羽のいる街』で使ったネタだ。たぶんあの小説を読んだ人間全員が「それ知ってる!」と思ってるぞ、たぶん。
8月19日 NHKBSプレミアム『鉄道王国物語4』。鉄道博物館に新幹線を運びこむまでの苦労話、パンタグラフには実は全体に電気が流れている、車掌は発進時には常に非常ブレーキに手をかけている、インドネシアの鉄道を立て直した日本の鉄道マン……2時間ほどの放映時間の中に鉄道に関する面白い話題が。
民放と異なるのは、そのスピード感。いやー、これは楽しめるわ。
夜にはBSトゥエルブで『超ムーの世界』。ちらっ観た。なんと今週は「ツタンカーメンの呪い」!
いやー、ひどかった。
「ツタンカーメンの呪い」については、僕が20年以上前に『トンデモ超常現象99の真相』の中で徹底的に暴いたんだけど、この番組の出演者はそんなことなんてかけらもふれない! 僕の書いたことを知らないのか、それとも視聴者はこんな嘘なんて見破れるはずがないと思っているのか。
その後も、古史古伝だの陰謀論だのオーラの見方(宮本武蔵はオーラを見ていたのだそうだ!)だの、怪しげな話ばかり。こんな話にいちいち「すごいね」と感心してみせる他の出演者たち……空しくならないのだろうか?
8月20日 妻が迎えに来る。来る。病院の人たちも、喜んでくれて「愛する奥さんと娘さんの待つ家に帰れますよ」などと言ってくれた。患者の一時帰宅というのは、病院の関係者に取っても嬉しい事件であるらしい。
妻とともにJRの各駅停車に乗り、吹田駅に。前に療法士さんと訓練したのが役に立ち、カードを使って改札を抜けるのも、電車に乗るのも、エスカレーターも、何の問題もなかった。ただ、下りのエスカレーターに乗る時だけ、緊張してしまうのを妻に見破れられてしまった。
そう、エスカレーターに乗るという当たり前の行為が、僕には強い緊張感を強いられる行為なのだ。
慣れるのに何か月かかるんだろう。当分はどこかに外出できそうにない。
妻と昼食。僕はスパゲティー、妻はカレーライス。味はまあまあ。
しかし、妻には気づかれてしまった。フォークを握る僕の手がめちゃくちゃぎこちないのを。
妻は僕の右手を「グッパ、グッパ、してみせて」と要求する。一見すると、すべての指が問題なく曲がるように見える。しかし、右手の人差し指、中指、薬指を揃え、小指だけを離す試験で、異状に気づいた。小指がぶるぶる震えるのだ。
小指が震えるせいで、右手で自由に字が書けない。妻は右手をちらっと見ただけで、それに気づいたのだ。お前、療法士より優秀だ!
食後に、この店の新製品「スノーアイス」というのを食べる。かき氷とアイスクリームをミックスしたような不思議な食感。面白い。
精算する時になって、彼女は言った。
「レジが終わるまで、席に座って待ってて」
これも僕の体をいたわってことか。些細なことだけど嬉しい。
食後は靴を買う。僕の今の靴が汚くてかっこ悪かったからだ。
妻が靴を選ぶのに一時間近くかかった。僕にあれこれ靴を履かせ、履き心地を確かめるのに時間がかかったのだ。僕に最高の履き心地を楽しんで欲しいと、執念に似たものを感じた。
これもまた、彼女の愛なのだろう。
駅前からタクシーに乗って自宅へ。
三か月ぶりの自宅!
驚くべきことに、大改装が行われていた。廊下や階段はそのままだが、僕の邪魔にならないよう、すべてきれいに片付いていた。僕が座りそうな場所には、腰掛けのサイズのボール箱が置かれ、椅子の代わりになっている。箱はきれいな包装紙で飾られ、内側に重い本が詰め込まれ、僕の体重がのしかかっても、倒れたり崩れたりしないようになっている。夜中にトイレに行くために立ち上がる時には、ここにつかまって立てばいい。
すごい!
たいした金を使わずに、我が家を(今の)僕に最適化された環境に改装しちゃったよ!
何て優秀なんだ我が妻!
夜間に娘が帰ってくる。
三か月ぶりの妻の手料理!
食事の後、録画を依頼しておいた『オデッセイ』をみんなで観る。妻と娘は初見。
そう、二人に見せたかったんだよ、この映画を。
火星に置き去りにされても、知恵と勇気で生き残る男の物語を。そして、遠く離れた土地から彼をはげまし、生きる意欲を支え、最後は見事に救出した人々。
あれは今の僕にとって、何よりも切実で、共感できる物語だ。
だから二人にもあの映画を見て欲しかったのだ。幸い、二人とも楽しんでくれた。満足。
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