第13話 8月分・1


 今、病院では、屋外リハビリの禁止令が出ている。異常な暑さで、熱中症で倒れる人が増えていると、ニュースで報じられているからだ。

 天気のことなんで誰にも文句を言えない。


 夢を見た。

 僕は病院を脱走し、JRの電車に乗って家に向かっている。そこに追ってくる病院の医師や看護婦たち。なんかスペクタクルな雰囲気の夢だった。

 口には出さないけど、僕はやっぱり家に帰りたいんだ。


 この間、ワンフェス(ワンダーフェスティバル)に参加しているガレージキットメーカーから、我が家に手紙が届いた。『MM9』の怪獣のガレージキットを作ったので、販売の許可をいただきたいとのこと。妻が病室に持ってきてくれた。

 いや、許可証にサインするぐらいいつでもするよ。するけどさ……。  

 何でTV版の怪獣なの?

 TV版のあの怪獣って、ドラマの中で何の活躍もしなかったし見せ場もない、思いっきり印象薄いんですけど。

 何で原作版のヒメやクトゥリュウのガレージキットを出さないのだ? いやグロウバットやメガドレイクでもいいし、ゼロケルビンやゴウキングやギガントやガラコブラやメカモグラ、ゴズやカガミやメドゥサ・アンドロメダでもいいんだけど。

 そういう大暴れした主役級の怪獣を無視して、何でTV版の印象の薄い怪獣をキット化するのか。わけ分からん。

 あっ、もしかしたら、ガレージキットのメーカーの人たち、原作を読んでないんじゃ……?


 今日は初めての妻との外出!

まずは、駅から病院までの途中にあるイタリアン・レストランへ。前回の外出の際、目をつけていた場所だ。

 絶対にイタリアンと決めていた!

 まず席に座る。僕は妻の正面の席に着いたのだが、妻は右隣りの席に移動する。隣りの席の方がサポートしやすいからだ。ああ、こういう心配り、好きだな。

 二人で一皿ずつ注文する。僕はピザセット。妻はパスタセット。二人で一人前ずつ頼み、分け合って食べる。僕が言い出したわけではなく、妻の方から言って僕も喜んで賛同した。

 コーヒーは二種類。僕はアイスコーヒー。これも病院では手に入らないものだ。

運ばれてきたピザを妻が切り分けてくれた。僕は夢中でそれにかぶりついた。

 天上の快楽だ。 僕は涙を流しそうだった。妻は「おおげさやなあ」と笑う。でも決してオーバーな表現ああじゃない。3ヶ月も病人食しか食べられなかった僕にとっては、ピザさえこのうえない美味なのだ。

デザートはアフォガードというイタリア製の冷菓。アイスクリームに濃厚なコーヒーをかける。初めて挑戦する味だ。

  ああ、美味だ。

  僕は初めてアイスクリームを食べた未開人のようにむさぼり食った。美味しいものを自由にできることの素晴らしさ!


  食後は近くの に書店に入る。妻は僕の身体を気づかって、エスカレーターを使わせようとしない。エレベーターで上階に昇る。僕はもうエスカレーターなんて平気なんだけど、念のためだ。

  この書店は前回に続く二度目。今回はじっくり選んでる余裕がある。

  ただしあまり多くの本は買えない。病室に置けないからだ。それに誰かに見られながら本を買うのは好きじゃない。本はのんびりと選びたい。

  結局、買ったのは『日経サイエンス』の今月号だけ。

  その後、トイレに行ったのだが、ここでも感激。ほんとに自由だ!


  妻と会話。町内であったトラブルのことや、僕がいなかった間に起きた話をいろいろと。

  美月の話になる。いま、ゼミの卒論で忙しく、「ゾンビになってる」とのこと。今の季節では、熱中症が心配だ。

  それにしても、8月に入ってもなお勉強しなくてはならないって大変だ。


  部屋に帰って『サイエンス』を読む。特別付録に海遊館がやっている「海月銀河」という企画のリニューアルオープンのことが書かれていた。

 妻はクラゲが大好きなのだ。よく婚約中や新婚の頃は何度も海遊館に通った。病気が治ったら、久しぶりに行ってみるか。でもいつになるか。


  今日はIさんと外出。この前、外出禁止令が出たけど、今は午前中の比較的涼しい時間帯ならOKになったらしい。

  今回は初の交通機関の利用。JRの高槻駅から新大阪駅まで、無事に移動できるかどうかである。

  高槻駅の改札を抜ける。僕は久しぶりに使うペルソナカードに少しだけとまどっただけだった。


 8月7日 毀誉褒貶はげしいドラマ版『この世界の片隅に』の感想を、原作者のこうの史代先生が書いている。

「でも大丈夫…「六神合体ゴッドマーズ」よりは原作に近いんじゃないかな!?」

  うわあ、褒めてねええええええっ(笑)。

  しかも貶してるんじゃないんだよね。原作と違うけどげんに大ヒットしたから、『ゴッドマーズ』(笑)。

  原作者というのは弱い立場なんである。原作を売っちゃった以上、強いことは言えない。多少の無理のある展開にも、原作と異なるキャスティングにも耐え忍ばなくちゃいけない。失敗作だった場合、(原作を読んでいない)視聴者による非難にもさらされる。

  僕もドラマ版『MM9』の経験があるのでよく分かる。あんなに退屈で、筋が通らなくて、キャラクターのイメージをぶち壊した話(特に、さくらの描写には怒りを覚えた)を、原作者として黙認しなくてはならないという苦悩……。

「原作はもっと面白いだぞ!」という怒りをずっと、胸に抱えてた。

 たぶん、原作者のほとんどは同じ怒りを抱えていると思う。特に原作をひどい改変された作者は。


 だからこうのさんの気持ちはすごくよくわかる。

『ゴッドマーズ』を選んだのも絶妙で、オタクでない人間なんのことやらチンプンカンプンだろうし、知っている人間には「ああ、あれね」とピンとくる内容になっている。しかもドラマ版への悪口にもなってない。 原作とは違うけど、当時はヒットしたんだから、『ゴッドマーズ』。

  僕もドラマ版『MM9』についてはそういう態度で臨むべきだったんだろうか。「『魔法の妖精ペルシャ』よりは原作に近いんじゃないかな」とかね。


 8月8日 台風13号が日本に接近している。

 今年の夏コミは参加できないけど、やはり参加者のことが気になる。のろのろ台風だそうだけど、10日も影響があるんじゃなかろうか。朝一番で会場に到着した参加者は、10時の開場まで台風の中でじっと並んで耐えるのか?  想像を絶する事態だ。死人が出なけりゃいいけど。

  まあ、徹夜組とかは、これはいい機会かもね。大勢の迷惑を顧みず、平然とルールを無視する者たち。お灸をすえられるべきなのだ。

 そもそもコミケは開催できるんだろうか? 首都圏では早くもJRのいくつかの路線が運休を発表している。「ゆりかもめ」はどうなるんだ?


  ああ、参加できないけど、僕はやっぱりコミケのことを心配してるんだ。

  みんな無事でいてくれよ。


  ツイッターを見ていたら、原田実さんのツイートに、僕が自分のブログに書いた「月をなめるな」という文章されているのに気づいた。

  やった! これまで自分のブログの文章ですら引用できなかったんだよ。原田さんのおかげで、「月をなめるな」に飛び、そこからさらに自分のブログに自由に飛べるようになった。

  ありがとう、原田さん!


 今日は友人の鋼鉄サンボくんが見舞いに来てくれた。僕と同じく特撮ファンでアニメファン。よくいっしょに映画を観に行ったりする仲だ。

 僕が倒れたことは、友野詳経由で知ったらしい。僕のツイッターの更新が滞っているので、「何かあったのかね」と仲間内で話している最中に、妻の連絡が友野くんに入り、そこから仲間内で報せが広まったらしい。

 今まで見舞いに来なかったのは、妻が止めていたから。正しい判断だろう。「うー、あー」としかしゃべれないのに、何人もお見舞いに来られても、どう対応していいのか、処理に困る。 最近になって、喋れるようになってきたから、呼んでも支障はないと僕が判断したのてある。

 彼はお見舞いに、明石市立文化博物館で開かれた「特撮のDNA」というイベントのパンフレットをくれた。これはありがたい。前に東京でやった「特撮博物館」に似てるけど、オリジナルの企画もあったらしい。ちくしょう、見たかった。

  最近の映画の話になる。

「『ニンジャ・バットマン』は……」

「ああ、面白かったですよー」

  くそ、観たかったよ!

「あと『ランペイジ』っていう映画、B級っぽかったんだけど、すごく面白くて……」

  ああー、それも観たかったよ、こんちきしょーっ!  ちきしょーっ! 

  でも何がどう面白かったかは言わない。未見の僕に対して配慮してくれてるのか。そうした思いやりが実にありがたい。

  退院したらDVDをレンタルしに行くぞ、『ニンジャ・バットマン』に『ランペイジ』。


  妻が家に届いた本をまとめて持ってきた。『ミステリーズ!』『小説野性時代』、それに『と学会誌』の最新号に、ASIOS編『UMA事件クロニクル』だ。

 中でも心待ちにしていたのが『UMA事件クロニクル』。雪男、ネッシー、チュパカブラなど、世界各地に伝わるUMA(未知動物)を紹介し、その伝説の真相を暴いた本 。僕が病気で倒れる前、最後にやっていた原稿で、編集さんが手を加えて、きちんと仕上げていただいた。実にありがたいことである。

  僕の書いた項目は、北米のフラットヘッド湖にいる(と言われる)スクリューのガー助(ハーキンマー)という怪獣について。それから北米全域のレイク・モンスター一覧のリストや、コンゴのリクアラ地方に棲む(と言われる)怪獣のようなUMAの数々も。いやあ、乗りに乗って書けました!

  思ったのは、これはまさにASIOSでしか書けない本だということ。いろいろなネタをきっちりオリジナルの資料まで調べ、怪しい話に疑問符をつけ、かと言って「そんなものいるわけない」とは決め付けない。

 何だかんだ言いつつ「好きなんだよな、こういう話」というのが透けて見えるのが楽しい。

 僕以外のネタで興味深かったのは、小山田浩̪史氏の言葉を喋るマングースの「ジェフ」の話。僕が前に『世にも不思議な怪奇ドラマの世界』で取り上げたネタの元ネタだ!

 ちゃんと読んでくれてる人がいたんだな。


 一方の『と学会誌』。

 僕がと学会やめてから、もうずいぶんになるのに、未だに同人誌を送ってくるんだよな。そう言えばトンデモ本大賞なんてまだやってんのかな。興味もないけど。

  今回の同人誌にしても、冒頭の光デパート氏の「盗作と捏造のカレー詐欺師」以外はあんまり読むべき記事が見当たらない。執筆者にしても、新しい人が増えてるような気もするけど、かつてのような活気はもうない。

 そう言えば今、「と学会に会長はいない」とか聞いたな。誰も会長なんて面倒なものをやりたくないから。それは分かる。

 僕が会長を止めたのもそれが原因だ。誰も責任を取ろうしなかったのが。

 会の中で起きるトラブル、それも僕に何の罪もないトラブルまで、僕が頭を下げなくちゃならなかった。

「このままじゃあ、会員がもっと大きなトラブルを起こした時に、僕も何の責任もないことで共倒れになる」

  その恐怖感はつねにあった。

 だから今、僕はさっぱりしている。

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