第9話 6月分


 妻は週に二回、洗濯物を交換しに、病院にやって来る。毎日来なくていいと僕が言ったのだ。

 妻はあまり身体が丈夫じゃない。電車に乗ってこの病院に通うのも疲れるらしい。このうえ妻まで倒れては大変だ。

 妻の持病の多さも驚異である。腰痛、胃痛、生理痛、頭痛、歯痛など、いつも病院に通っている。病院のカードが何枚あるのか見当もつかない。


 持病の一因は、若い頃にやっていた老人介護の仕事にあると思う。

 食事の介助、トイレの介助、風呂の介助……今まさに、僕が介護士さんたちから受けている仕事を、妻もやっていたのだ。この病院にいるような軽度の患者ばかりじゃないし、それに老人と言ってもやせ細った人とは限らない。すごく体重のある人をかかえて介助しなくてはならない場合もある。

 だから老人介護の仕事をしている人の職業病は腰痛である。  


 妻からそのつらい体験談をさんざん聞いていたので、「人間の代わりに介護してくれるアンドロイドがいればいいのに」と考え、書いたのが「詩音の来た日」(『アイの物語』に収録)である。

 小説の中では、近未来の日本が老人介護の問題に力を入れ、アンドロイドの配備に乗り出すということになっていたが、現実にはそんなことは起きそうにない。

 妻が辞めた後も、依然として待遇は改善はされず、それどころか人員は削減される一方だとか。

 たぶん政治家はみんな老人問題になど関心ないのだろう。歩けない老人、投票に参加しないような老人など、票田として魅力がない。それに彼ら政治家は、たんまり金をためこんでおり、老後の心配などしなくていいのだろう。


 前にポメラのキー配列すべて忘れた話をしたけど、実は『アイドルマスター シンデレラガールズ』の使い方もころっと忘れてた。

 幸い、使用法などの説明はあるから、思い出すことはできたけど、最初のうちはかなり混乱した。売るつもりじゃなかったカードを売っちゃったり。こんなことで192レベルに達したプロデューサーを廃業したくない。

 お気に入りの結城晴のカードにはまったく被害はなかったのが不幸中の幸い。まあ晴のカードはみんな保存してたけど。


 六月十八日。今朝から関西地方で大きな地震あり。臨時ニュースによれば、震源地はこの真下だとか。

 この病院も朝からエレベーターがストップしてた。いつもは二階のリハビリ・ルームまで、看護師さんたちが車椅子や歩行器の患者を送り迎えしてくれるんだけど、今日はそれは無理。看護師さんたちは階段で登り降りして、各病棟で患者のトレーニングをしていた。大変だなあ。

 僕はおっとり構えていて、「ははあ、震源地か。それで初期微動がほとんど無かったんだな」と冷静に観察していられたんだけど。


 後で妻に文句を言われた。「家族のことが心配やないんかい」と。なぜ安否を問い合わせる電話をかけなかったと言うのだ。

 だって大きな災害の際には、家族の安否を心配する人間がいっぺんに電話をかけるもんで、回線がパンクするかもしれないって聞いたことかあるんだよ。だから必要もないのに電話をかけるのは良くないと。

 それに朝っぱらから君にたいした用件もないのに電話かけるのは悪いかなと思ったのだ。震源ではない吹田ならすこし揺れた程度。我が家が崩れるようなことはあるまいと。


 でも後になって、美月がひどく怖がっていたというのを聞き、考え直した。そうか、お前にとって、人生で初めて体験する大地の揺れだったんだな。

 悪かった。せめてすぐに電話をかけて、「怖くなかかったか?」と訊ね、落ち着かせてやるべきだった。


 ちなみに僕と妻はもっと大きな揺れを体験したことがある。美月が生まれる一年前、平成七年一月の阪神淡路大震災だ。

 僕は徹夜で仕事をしている最中だった。ぐらぐらっと来た瞬間、電気が消えて数時間の仕事がすべて不意になった。さらに仕事場に七つあった本棚がすべて倒れ、何百冊もの本が散乱した(よく本棚の下敷きにならなかったものだ。我ながら悪運が強いと思う)。

 隣の寝室で、妻が呼んでいた。散乱した本の山を乗り越え、ようやく寝室に足を踏み入れると、僕に泣きついてきた。「私が呼んでるのになんで来てくれへんの」と。

 夜明けとともに電気が復旧した。各局のTV中継を見ながら僕たちは戦慄していた。

 その頃、妻はまだ吹田市の老人保健施設で働いていた。出勤時刻が近づくと、彼女は自転車に乗って家を出た。「たとえ地震があろうが、誰かがお年寄りの世話をせんとあかんやろ」と言って。

 その後も彼女は、休みの日になるごとに被災地を回り、ボランティアとして働いた。誰に言われたわけでもない、自分の意志でだ。

 僕は真奈美という女性と結婚できたことを誇りに思う。


 今日はNHK衛星第一で『超常!幻界ファイル』を見た。再放送で、偶然だろうけど、たまたま僕の出演した回だ。

 霊視捜査の番組のインチキを暴いた回。いや、なかなか面白い。『FBI超能力捜査官』『テレビのチカラ』などの実名は出せなかったけど、同じような霊視をやって見せ、実際の番組と比較して、霊視のトリックを再現した。再現ビデオでのディレクターとスタッフのヤラセ会話も本物そっくり。当然で、僕が番組スタッフに『FBI超能力捜査官』のビデオを渡したから(笑)。

 日本の民放ではいまだにこの手のインチキ・オカルト番組がはびこってるけど、こんな風に真面目にオカルトを扱う番組(しかも面白い!)ってできないのかね。視聴者に十分、需要はあると思うんだが。


 今日、介護士の若い女の子と話していて、「最近は蚊に悩まされことがなくなりましたね。家の前の下水口に殺虫剤を撒くので、ボウフラが出なくなった」と

言ったら、

「ボンフラって何ですか」

 と聞かれた。若いので「ボウフラ」というものを知らなかったらしい。

 何度も何度も「ボンフラ」「ボンフラ」と言うので笑い転げたら、「何で笑うんですかあ」と笑っていた。辞書で調べなさい。


 今日の『HUGっと!プリキュア』は初代のキュアブラックとキュアホワイトがゲスト出演する話。

 第一作って『エアマスター』(これも好きだった番組)の監督ってことで見はじめたんだけど、実はあんまり脚本が良くなかったもんで、途中で見なくなってたんだよね。再び見るようなったのは、『ハートキャッチプリキュア』から。あれは本当にいい脚本で、面白い番組だったから。

 アニメを「絵がいいから」と評価する人が多いけど、僕はむしろ脚本とシリーズ構成で見る。絵だけで語られてもねえ。


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