第10話 7月分
七月二日。今日は理学療法士の女性に付き添われ、初めての外出。妻も一緒だ。
病院から出て駅前のファッションビルまで、往復四〇分の小旅行。
病院の三階のロビーから外に出られるとは知らなかった。ここに到着した日は病人専用のタクシー(後ろに大きな担架を乗せられる)で着たから、外観を眼にするのは初めてである。
おお、窓の外に見えていた通路は、病院の三階から駅につながっていたのか。
それにあのずらりと車の並んだ駐車場、病室の窓からは車の背中しか見えてなかったよ。
あの窓を覆い隠している陰気なマンションの背後に、こんな賑やかなビルがあったなんて。
何かRPG(ドラクエなんか)で主人公の行ける場所が急に広まった時のような感じである。
目的地のビルに到着。僕が本を好きだってことは伝えてあったんで、五階の書店に直行した。時間が無いので五分間ほどしか見て回る余裕がなく、立ち読みしている時間もなかったけど、十分に堪能した。
帰り道ではイタリアン・レストランや中華料理店の前を通る。僕が「へえ……」とつぶやいたら、妻が笑って「あんたはまだ、病人食しか食べたらあかんねんで」と言う。分かってるよ、それぐらい。
でも僕の聞いてるのを知りながら、「ここのパン屋さん、美味しいけど高いんですよねえ」なんて会話を、療法士さんと交わすんだもんなあ。
終了後、病室で一服。妻はカレンダーのバックに印刷された料理の写真を見て、「退院したらこういうの作ったげる」と約束してくれた。いい嫁だ。
「ボウフラ」を知らなかった療法士の女の子、「あれから周囲の人たちに聞いたら、みんな『そんなことも知らんのか』ってバカにするんですよね」と言う。そりゃそうでしょ。
ふとこの機会に彼女の常識を試してみたくなり、「ヤゴって知ってます? ウジは?」と訊ねてみたけど、やはり知らない様子。
「ハエの幼虫……ハエってあの格好のまま生まれるのかと思ってました」
恥かかなくてすんで良かったね。
その後、七夕の話題になり、あるテレビ局が七夕の日に天文台に電話をかけてきて、「織り姫と彦星が出会うのは今夜の何時頃でしょう」と訊ねたという話をしたら、「さすがにそれはないですね」と笑っていた。
『ハトプリ』は謎の美青年の正体が判明する話。普通、この手の番組に出てくる「謎のキャラクター」って、途中で視聴者に正体がバレるものなのに、ほんとに最後まで騙し通したな。
ショックを受け、「ひそかにお慕い申し上げてましたのに」と言うつぼみ。いつきの件もそうだけど、彼女の恋は残念な結果に終わるという宿命らしい。世界一不幸なプリキュアなのかも。
ところでこの回では、プリキュアパレスに展示されていた昔の歴代プリキュアの石像が出てきた。映画版ではもっとすごくて、振り袖風の衣装のプリキュアの石像も出てきたと記憶している。
ということは、何百年、あるいは何千年も前から各時代にはプリキュアがいて、それぞれ異世界からの敵と戦ってきたのだろうか。
ということは昭和初期の時代が舞台で、怪人二十面相みたいな宿敵と戦う『プリキュア探偵団』なんてのもありなのかな。あるいは江戸時代が舞台の『プリキュア仕事人』とか、戦国時代が舞台の『プリキュア忍法帳』とかな。原始時代が舞台で、キュアサーベルタイガーやキュアマンモスといった毛皮のビキニのプリキュアが登場する『フリントストーン・プリキュア』なんてのもあり。
七月六日、今日は朝からひどい雨。
本来なら妻が来る日なのだが、朝に電話をかけ、「無理して来なくていい」と告げる。地震の時のことがあったもんで、「ようやく家族のこと心配するようになったか」と言われる。
例の看護師の女性に何となくモスラの話題を出したら、
「モスラ……何となく聞いたことがあります。ウルトラマンに出てくるんですよね?」
出ないよ、『ウルトラマン』には!
七月七日。依然として大阪は大雨。
朝、新番組の『ゾイドワイルド』を視聴。期待してただけに、ちょっと失望。昔の『ゾイド』って、こんなお子さま向けだったっけ? もっとハードな展開だった気がするんだけど。
それに対して『シンカリオン』は最高に面白かった! 強敵ブラックシンカリオンの出現に味方は次々にやられる。こちら側はブラックシンカリオンの動きを封じるために、いつもの捕縛フィールド内ではなく、超進化研究所の地下におびき寄せ、これまでの味方キャラを総動員して敵を食い止め、救援を待つ。さらに崩れた線路を復旧させるために脇役キャラを大活躍(ツラヌキの台詞、「俺の好きな四文字熟語は『安全第一』だぜーっ!」には笑えた)。ラストはそれらの苦難を乗り越えた末の親子合体……完璧じゃないですか!
『シンカリオン』のすごさは、子供向けではあっても子供だましじゃないこと。子供でも分かる程度のツッコミにはいちいち説明が入っているし、鉄道に関するマニアックな知識も入れている。
やっぱりいいのは、戦いを子供だけにまかせっぱなしにはせず、きっちり大人がサポートしてること。今回もハヤトのお父さんのがんばりが、すごくかっこいい!
中年のお父さんにこそおすすめのアニメかもしれない、『シンカリオン』。
毎月、大阪のなんばで僕が司会のイベントを開いてくれている井田さんが、見舞いに来てくださった。
僕の様子が意外に元気なので、ほっとされた様子。井田さんも昨年の暮れに重い病気にかかり、二週間ほど入院されたので、人事ではないのだそうだ。
「元気になったらまたイベントに」と言ってくださったけど、人前で喋るのは当分無理かもね。
お見舞いに神戸風月堂の水ようかんをいただいた。食べていいものか、ナースステーションで訊いてとろ、「一日に一個だけならいいですよ」とのこと。やったね! これで食生活がいっぺんに豪華になったぞ!
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