change山田
山田は迷っていた。
花の仕事用の電話にかけるかどうかを。
今ならまだ手元にあるかもしれない。
だけど、出てくれるかどうか分からない。
それに──「仕事上の付き合いだ」と言われてしまったら───
立ち直れない。
いや、花に限ってそんなことはない。
意を決した。
コールが続く。1 、2、 3、 4、 5…
「もしもし?」柔かな声がする。
「あっ、あ、や、山田です」
「山田さん?」
「あの、ホ、ホワイトリリーを辞めたって本当ですか?」
「ごめんなさい…」
「どうして?どうして辞めたんですか?」
「ごめんなさい。このままいても、お互いに辛いだけだと思うの」
「…お互いに?」
「ええ、山田さんには素敵な女性と出逢って欲しいと思います。それがきっと、山田さんにとって一番いい事だから…」
「ぼ、僕は花さんが…」
「私ではないの。あなたを幸せに出来るのは」
僕を幸せに?
そこまで言わせて、やっと気がついた。
花は山田を想っている。
一緒にいれなくても、恋人になれなくても
想う──幸せを願う。
その為に花は出来る限りのことをした。
「花さん…」
「山田さんと過ごした時間は、とても楽しかったです」
リツとのことは聞けなかった。
山田は泣いた。
叶わなかった悲しみなのか、花の想いに対する嬉しさなのか、自分でも分からなかった。何もせず、何も食べず、ひたすら泣いた。
月曜、出社した山田は
辞表を提出した。
抜けるような秋晴れの空
広場のベンチで缶コーヒーを飲む山田。
遠くの空を見つめる。
あれから花には一度も会っていない。
山田にとって、花との思い出は間違いなく人生のハイライトだった。
リリーを介しての連絡が出来なくなれば、もう会うことは叶わない。そんな薄っぺらい関係に何処まで期待していたのか。
花との別れは辛かったが、何とか立ち直れるものだと知った。
人は変われる。
恐れず恋をしよう。
花のためにも。
目の前を通りすがった女性が山田に声をかける。
「山田さん?」
花ではない。
顔を上げると、前の職場で一緒だった若い女性がいた。
「お久しぶりです」
「あぁ、久しぶり」
「新しい職場、この辺なんですか?」
「あぁ」
「えー、もしかしてヘッドハンティング?」
「いやぁ…みんな元気にしてる?」
「もう、大変ですよ!山田さん辞めてから牛島さん更にヒドイし、目茶苦茶です!」
「そ、そうなんだ…」
「ほんと、みんな山田さんのありがたさを思い知りましたよ。甘えてばっかりいたから」
「はは…あっ、も、もしかしてお昼買いに行くの?よ、良ければ一緒にどうかな?」
山田はコンビニ袋をそっとベンチの後ろに落とす。
「いいですね!山田さんにいっぱい愚痴きいてもらっちゃお」
「じ、じゃあ、そこのパスタはどうかな?おいしいですよ」
「はい!パスタ好きです」
「私も会社辞めたいですよー」
「そうなんだ」
「なんか山田さん雰囲気変わりましたねー」
「そう?」
他愛もない会話をしながら、女性と肩を並べて歩いてゆく。
爽やかな秋風が吹き抜ける。
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