永遠
いつもの料亭で向かい合う二人。
いつになくシリアスな山田が真っ直ぐ花の目を見て言う。
「花さん、そっちに行っていいですか?」
「はい、お食事はもういいんですか?」
「もういいです」
花も箸を置く。
花の横で膝立ちの山田は、座る花の頬を両手で包み、キスをする。
力が抜けてゆっくり座ると、そのまま花の腰に腕を回し、しがみつくようにひざまくらになる。
花の手の甲にキスをして、頬にあてる。
花は山田の髪を撫でる。
「今日は寝ないでくださいね」
「寝ません!絶対…寝ません!」怪しい。
「花さん…ありがとうございます…
こんな…ぼ…僕を…受け入れて…くれて…
ほんとに…自信が…持てま…した…ありが…と…………ぐー」
山田の髪を、愛しそうに撫でる花。
花は膝に山田を乗せたまま、ゆっくりランチを済ませた。
「じゃあ、また」
「また」
ランチが終わり、いつものように別れる。
山田はどうしても帰れなくて、花の後ろ姿をしばらく見送る。
ふいに花が振り返った。
笑顔で手を振る。
山田は、一秒が永遠になることを知った。
数日後、山田は残業を断り、ある場所へ向かった。
ワンフロアの開けた明るいオフィス。
元上司の佐藤がやってくる。
「おぅ、久しぶり」
「今日は急にすみません」
「いや、いつでもかまわんよ」
「なんか、うちの会社とは雰囲気全然違いますね」
「あぁ、イマドキだろ?」
佐藤はニヤリと笑いつつも、鋭い目付きでこう言った。
「あれから大変だっただろ」
「知ってたんですか!?」
「ああ、俺が配属された時から部署ごと潰すことになってた。俺も辞めるつもりだったからな。それで俺が配属されたんだ」
「えぇ…」
「牛島はキツイからなぁ。誰か辞めたか?」
「黒田さんが…」
「そうか。さすがだな」
「おまたせ」
スラッとした優しい雰囲気のイケメンが爽やかに現れた。
「おっ、オレの友人でここの代表だ」
「はじめまして」
差し出された右手の指が細く長く、リュウジを思い出してドキッとした。
「は、はじめまして、山田です」
家事をしながら、山田のことを思い返す。
今日の山田は今までにない強引さで、戸惑いと同時に少し揺らぐ自分がいた。
皿を洗う手が止まり、水が流れっぱなしになる。
「ママー!出しっぱなしダメ!」
「あぁ、ごめんね」
「ほら、パジャマ着て」
裸で駆け回る子供を捕まえて、パジャマを着せた。
山田には、素敵な女性が見つかればいいと思う。その為に少しでも役に立てたのなら嬉しい。そろそろ潮時かな…
花はリリーにLINEではなく、電話をかけた。
湯上がりに、庭に出て涼む。
芍薬が咲き終わり、百合の花が咲き始めていた。摘み取って花瓶にいけると、甘い香りが広がる。
「いい香りだね」夫がビールを持って来る。
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