波のゆくさき

カフェでランチをとるリツ。

今日は金曜日なのに、リリーに花の予約を断られた。

誰かと会ってるのか?

いや、学校行事に違いない。

たぶんPTAだ。

…ってかオレ、どうしちゃったの?

海で…ひざまくらで眠った山田の髪を、愛しそうに撫でる花が脳裏に浮かぶ。

その表情は、優しく、まるでわが子を慈しむようでもあり、艶やかでもあった。

「はぁ…」

ため息が漏れる。


「あらリツちゃん、またナヤミゴト?」

「んー」

「あ、そういえば今朝、あの女の人見かけたわよ」

「えっ、どこで?!」

「池袋」

「池袋?」

「男と居たわよー」

いつかのガタイのいいイケメンか?

「ガタイのいいイケメンだった?」

「ううん、メガネのもやしっ子だった」

兄貴だ。

「リツちゃんのほうがずっといい男なのに。わかんないわよねー、女って」

安堵と共に怒りがこみ上げる。

兄貴で良かった。でもなんで兄貴なんだよ!

ダメだ──やっぱりダメだ。

兄貴には渡さない!



ベビードールを着た若い女が、ソファーでガーターストッキングを片方脱ぎ捨て、ペディキュアを塗りはじめる。

「りつぅ」

リツはパソコンに向かい、集中している。

「りつぅ!」

「んー」

「ねぇ、どっか旅行いきたいー」

「……」

「ねぇー」

「……」

「きーてる?」

女がしびれを切らしてリツのほうへ歩み寄る。

「なんだ、ちゃんと探してくれてるんだ?それどこ?モルディブ?」

女がリツの首に後ろから抱きつく

「伊豆」

「イズ?」

「あたし海外がいー!海がキレイな海外行きたい」

「はいはい」

女を抱き上げ、ベッドへ連れていく。

「ぅん❤」


目を瞑り、花を想う。




リリーからLINE

「お疲れ様です。今日のリツちゃんからの予約はお断りしたけど、来週はいいかしら?伊豆に行きたいと連絡がありました」

リツには会わないほうがいいと理性は言っている。

裏腹に、本能はリツを求めている。

海で抱きしめられた時の鼓動の重なりが

快い波となって、花の体に残る。


「わかりました。よろしくお願いします」



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