ハンティング
「失礼します」
満を持して助手席に乗り込む山田。
花のハンドルさばきやシートベルトに一通り反応した後、改めてリツが先に乗ったことに腹を立てる。
アイツは前回も花さんの助手席に乗ったじゃないか!今回は行きも帰りも僕が助手席に乗っていいはずだ!
「海、綺麗でしたね」
「そ、そうですね」
後部座席では、早くもリツは眠ってしまっている。
「今日は、眠ってしまってすみません…」
「いえ、気持ち良いい風だったから、眠くなりますよね。リツさんも眠っちゃいましたね」
「ふふ、そうですね」
後部座席を覗き柔らかく笑う山田は、出会った頃に比べると、随分あか抜けている。
「山田さん、その後、出会いはありましたか?」
「えっ、でで出会いですか?いえ、そんな…」
「気になる人はいますか?思いきって誘っちゃうとか」
「そ、そんな勇気あ、ありません!」
「そっか…ハードル高いですよね…。では今度、シュミレーションしてみましょう」
「シュミレーションですか?」
「山田さんにデートプランを立ててもらって、デートのシュミレーションをするんです」
「プ、プランですか…」
「はい、考えて私を誘ってください」
「わ、分かりました。じゃあ来週の火曜日に…」
「あの…金曜日にしてもらってもいいですか?」
「今週の金曜ですか?」
「はい、出来れば。木曜日の夜なら大丈夫なので、電話をして下さい。デートのつもりで誘って下さいね」
利用者によって、電話で話を聞いて欲しいという依頼もあるので、専用電話の用意がある。木曜日の夜なら夫は出張でいないので、電話を受けやすい。
「だ、大丈夫かな…」
「とにかく、やってみましょう」
「は、はい…」
待ち合わせ場所に車が戻る。
「ふわぁ、よく寝た。花さん運転が上手いからぐっすり寝ちゃったよ」
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ楽しかったです」
「じゃあ、また」手を振る。
車は緩やかに発進する。
やっぱり、帰れない。
二人で角を曲がるまで見送る。
翌朝
いつもの仕事風景
突然、上司に呼び出された山田はイヤな予感が止まらない。会社の屋上で上司と二人きり。殴られるんだろうか…。
「お前、会社やめろ」
「えっ、なんでですか? ゆ、有給とったからですか?」
「ここで働いてて楽しいか?」
「…楽しくはないですけど…仕事ってそんなもんかなって」
「なに言ってんだよ若いのに。もっとギラギラしろよ!俺の同期が新しく事業を立ち上げる。お前、そこへ行け」
「え、なんで?なんでですか?」
「だから、ここに居たって周りに消費されるだけだろ!お前は仕事ができる。うまく使ってくれる会社に行ったほうがいい」
「あ、ありがとうございます」
「俺も近々辞めてそこへ行く」
「え!?」
「お前も後から来い。連絡する。誰にも言うなよ!」
「わ、分かりました」
上司の迫力に気圧され、訳がわからないまま承諾してしまった。
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