鼓動

「それで?次は誰が死んだんだ?」

「え、あの…」

海に行くための有給を申請する。

さすがに毎週親族が死ぬことに自分でも違和感を拭えない。

「お前さ、先週は親父の葬式だったのに、翌日なんであんなにシュっとなってんだよ?」

「い、いつもの散髪屋が休みで…」

「もういいよ。理由はナシでいいんだよ。残業だってイヤなら断れ」

「すみません…」

「親父さん、大事にしろよ」



待ち合わせ場所に車が止まる。

「おはようございます」

「おはよー!」

「おはようございます…」

元気なリツと対照的にフテ腐れる山田。

どちらが助手席に座るかで散々揉めた結果、じゃんけんで負けた。

やっぱりハンドルさばきがエロく、シートベルトは谷間に食い込んでいる。

「楽しみですね。 海、きれいですよ」

「えぇ…」

「今日はおいしいサンド買ってきたよ。いいかげん元気出せよ、兄貴」

「帰りは絶対助手席だからな!」

「はいはい」

音楽をかけて、リツと花が楽しそうに話している。後ろで黒く渦巻く空気を発する山田には関係なく、海岸線は今日も素晴らしく気持ちがいい。

「あー、見えてきた!」

きらきらした海面が広がる。

「わー、ほんとだ!気持ちいい」


浜辺にパラソルを立て

シートを敷き、ランチを広げる。

「いただきます」

「うん、おいしい!」

「でしょ?」

「んー!こういうところで食べると格別ですね」

ハンカチで口を拭う花。


食事が終わり、海を眺める三人。

「花さん」正座の山田。

「はい」

「ひ、ひざまくらいいですか?」

リュウジとの戯れも良かったが、やはり花の柔らかい太腿に癒されたい。

「はい、いいですよ」

「失礼します!」

至福の表情で、やはり堕ちる山田。

それを見つめる花。

そっと山田の髪を撫でる。

「ぐー」

イビキをかきはじめる。



「ね、ちょっと海行こう」

「でも、山田さんが…」

「大丈夫だよ、寝ちゃってるし。そっとどかして」花の手を引いて海に向かう。

「前よりあったかいね」

「ほんと。気持ちいい」

スカートを束ねて歩く花を後ろから抱き締める。

「やっぱり柔らかい。いい香り」

「ダメですよ」

髪から頬へキスする。

「会えなくなっちゃいます」

「それはヤダ。でも、もう少しだけ…」

背中越しにリツの鼓動が伝わり

花の鼓動と重なる。

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