ヒトノモノ
金曜日正午、カフェでリツが待っている。
扉が開き、花が入ってきたので手を振った。
「こんにちは。素敵なお店ですね」
花が握っていたあのハンカチをテーブルに置く。
「味もいいよ」
「ほんと、サンドおいしかった!」
「いらっしゃいませ」
「サンドとレモネード、2つずつね」
「はーい」
半分テラスになった席は、晴天のおかげで気持ちがいい。
「やっぱりおいしい!レモネード、サイコー!」
「でしょ?」
「海、楽しかったですね」
「だね。今度はどこ行きたい?」
「またあの海に行きたいなぁ」
「俺も」
花がサンドを頬張る。
唇をなめながらリツと目が合い、恥ずかしそうに笑う。
「兄貴と買い物したんでしょ?」
「はい、山田さん、すごく素敵でしたよ」
くくくと笑うリツ。
「兄貴、頑張ってるなぁ」
「素敵な彼女、できちゃうかもしれませんね」
「寂しい?」
「ふふ、どうかなー?」首をかしげ、毛先を弄る。
その仕草は罪深い。
「じゃあ、来週は海に行く?」
「そうですね…でも、火曜日も山田さんと海に行くかも」
「そうなの?じゃあ、三人で行こうか」
「うん!それはいい考えですね」
山田は嫌がるだろうが…
「金曜はどうする?」
「そうですね…行きたいところありますか?」
「うーん、そうだな、ちょっと調べてみるね」
「お願いします」
花が帰った後のカフェ。
「もしかして、あの人がターゲット?」
「やっぱバレた?」
「まぁ、いい女ね。くやしいけど」
「だろ?」
「いい女はね、靴を見れば分かるの。ピカピカのハイヒールだった。歩き方も良かったわ」
「おぉ、マスターのお墨付き?でも、人のものなんだよねー」
「あらリツちゃん気にするタイプだった?」
「だって、お母さんだよ。子供が悲しむでしょ」
「ほんとあんた男前よね❤」
拳で肩をグリグリされる。
「イタイイタイ…」
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