ナヤミゴト

ある日のデパート

山田がハンカチ売り場でウロウロしている。

どう見ても不審者だ。

その近くでクライアントと打ち合わせをしているリツがいた。

山田に気づき、歩み寄る。

「兄貴!何やってんの?」

「あっ、アレ?リツ、なんで?」

「仕事だよ」

「え?こういうとこで仕事なんだ」

「兄貴は?買い物?」

「あぁ、例の借りたハンカチ、買って返そうかなって…」

「そうだね、気持ち悪いもんね」

「ズバリ言うなよ…」

「それにするの?」

山田が手にしているハンカチを見る。

「ど、どうかな?」

「いいんじゃない?清楚っぽくて」




カフェでランチをとるリツ。

あのサンドとレモネードがテーブルにのっている。

時計を見る。

火曜日正午。

花は山田とランチの時間。

海で花が持っていたハンカチのことを思い返す。

やっぱりあのハンカチだ。

今までそんなこと、気に止めたこともなかった。

一緒にいる相手が他の男を匂わせるようなことはなかったし、あったとしても気付かなかった。

というか、どうでも良かった。

リツに群がる女はだいたい同じタイプで、リツの顔と金が好きだった。

そのことをリツは受け入れていた。

というより、来る女がみんなそうだから、そういうものだと思っていた。

彼女には不自由したことがない。

常に複数と付き合う。

それがリツのスタンダードだった。


目を閉じ、椅子に体を預ける。

自然とため息が漏れる。

兄貴に彼女が出来ればいいとは思うが、花さんは人妻だ。

それに…

「リツちゃん、どうしたの?」

オネェのカフェマスターが声をかける。

「ナヤミゴト」

「やだぁ、セクシー❤」

「セクシーなの?」

「悩める美青年なんて、 女子にはど真ん中でしょ」

「そうか、その手でいくか」

「あら、ターゲットは誰なの?アタシ!?」

「残念、今回は違う!」

「あーん、次回待ってる❤」

マスターがひとさし指にキスして投げる。

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