プライド
はっ…はふん。
濃密な時間が流れる。
ふいに目元のタオルを取り上げられ、そっと瞼を開くと、リュウジの瞳が間近に迫っていた。
「…っ」ドキドキしちゃう。
紅潮した頬を両手で包まれる。
「ふふっ、今日はこのくらいにしようか。キスは我慢してあげる。誰にも内緒だよ?」
密着していた体が離れると、お互いの熱で湿った衣服が冷えて我に返る。
ふらふらと促されるまま受付へ行くと、花がお茶を飲んで待っていた。
「すごぉい!山田さん、素敵!」
「あっ、はは…」なんだか花と目が合わせられない。
「ありがとうございました。またお待ちしております」
意味深な笑みを浮かべ、リュウジは頭を下げた。
リツの紹介のショップへ着き、中へ入るとすぐに声を掛けられた。
「山田様でいらっしゃいますね?」
「あ、はい。リツに紹介されて来ました」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
奥の部屋へ通され、お茶が出される。
「リツさんから山田様の画像を見せていただいて、あらかじめスタイリングさせていただきました」
何パターンか用意されていて、モデルのように次々フィッティングしていく。
審査員は花「○」「まぁまぁ」などコメントして、良いものを振り分けていく。
最終的に残った3セットを購入することにした。
いったいいくらするんだろう…
貯金を全額叩くつもりで、震える指でガードを出した。
すると、キャッシュトレーに一枚のメモが置かれた。
『お代はリツさんから頂いております』
スタッフは静かに微笑むとメモをしまい、ガードを山田に返した。
「お包みいたしますので、お茶を召し上がってお待ちください」
山田は花の待つテーブルに着き、一緒にコーヒーを飲んだ。
とにかく、帰ったらリツに連絡しよう。
「ありがとうございました」
大きな紙袋を持って店を出る。
ユニ○ロ以外で洋服を買うのは初めてだ。
「山田さん、すごく素敵ですよ!」
「あ、なんか、照れ臭いなぁ…」
ショーウィンドウに映る姿は自分ではないようだ。
「とってもお似合いですよ」
「は、はぁ…」
なんだかこそばゆいけれど、心地よい。この日は花といつもの料亭以外でランチをした。
初めてのことだらけで疲れ果てた山田は、半休じゃなくて休みにしておいて良かったと思った。ありがとう親父。
家に着くと、リツにLINEした。
「金払うよ」
「おー、どうだった?」
「良かったよ。ありがとう。いくらだった?」
「いいよ。ユニ○ロの30倍くらいするから」
「兄としてのプライドが…」
「あったのか」
「今日は無い」
「笑」
「なんか、ありがとうございましたぁ!」
「むかつくw」
兄としてのプライドを通すよりも弟を立てることを選んだのか、単に金が無かったのか。
山田のみぞ知る…
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