イメチェン

火曜日正午、いつもの料亭。

山田と向かい合う花。

山田、無言で食べる。

「…なんか…怒ってます?」

「い、いえ…」

「海行ったの、まずかったですか?」

山田、無言で首を横に振る。

「た、楽しかったですか?」

俯いたまま尋ねる。

「はい、楽しかったです。次は山田さんと行きたいなぁ」

「行きたいです!ぼ、僕も行きたいです」

「でも海の前に、買い物に行きませんか?」

「そ、そうですね。リツから店を紹介してもらいました」

「では来週いきましょうか。美容室も予約しておきますね」

「な、なんか緊張するな…」

「大丈夫!もっと素敵になりますよ。でも、またお仕事休まないとダメですね…」

「大丈夫です。有給取ります。全然使っていないので、ちょうどいいんです」



会社に戻り、有給を申請する。

眉間にシワを寄せた上司に睨み付けられながらハンコをもらった。

山田は親父を死なせてしまった。




花が予約した美容室前で待ち合わせる。

山田は美容室は初めてだ。近所の散髪屋にしか行ったことがない。

入店前から脂汗が滲む。

若い女性にシャンプーしてもらうなんて、日常的にあっていいのか?!そんなことを悶々と考えているうちに目の前に花が立っていた。

「山田さん?」

「あっ、すみません、ぼーっとしちゃって…」




「いらっしゃいませ」


店内はとてもスマートで、男性でも抵抗なく過ごせる空間になっている。

「このお店は男性客が多いんですよ」

「そうなんですね。思ったより抵抗ない感じで良かったです」

「担当のスタイリストさんも男性でお願いしたので、安心してくださいね」

この店では担当スタイリストがシャンプーからスタイリングまで全て一人で行うシステムらしい。

ちょっと残念…いやかなり残念…

しかも、プライバシーを重視する方針のようで、ブースはほぼ個室のようになっており、他の客と顔を合わせることがない。ずっと担当者と二人きりだ。

これは…美容師がモテる仕組みが解った気がする。


「こんにちは。担当させていただきます、リュウジです」

「あ、はい、よろしくお願いします」

山田もぼーっとしてしまうほどのイケメンだ。

「リュウジくんは、私の担当さんなの。上手だからきっと素敵になりますよ」

「ではまず、どんなふうにするか、カウンセリングしましょうか」

「じゃあ、私は二階でネイルしてきますね」



「さぁ、どうしましょうか?」

リュウジは鏡越しに山田を真っ直ぐ見つめながら、細く長い指で山田の髪をすいた。

山田は感じたことのない高鳴りにとまどっていた。

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