「ちょっと海に入ってみない?」

「大丈夫かなぁ」

不安そうな花の手を引いてリツが連れてゆく。

「つめたい!」

スカートを束ね、探り探り歩く。

「まだ冷たいね」

「はは、でも気持ちいい!」

「きゃ!」転びそうになる花。

「大丈夫?」手をとるリツ。

「危ない!やっぱり戻ります」


「はー暑い」

花はハンカチを取りだし、首筋の汗を拭う。

「あ、そろそろ戻らないと」

「もう時間?」

「すみません…」

「いいよ、少しでも。いい時間だった」

「うん、楽しかった」

帰り道、リツは眠ってしまった。

やんちゃな男の子のようだ。

罪な寝顔に思わず微笑む。




待ち合わせ場所に車が滑り込む。

「じゃ、またね。次はカフェ行こう」

「楽しみにしてます」

手を振って見送るリツ。

角を曲がるまで見送る。

なんとなく、帰れない。

山田からのLINE未読が50以上あった。

相変わらず気持ち悪い。

今日は仕事にならなかったようだ。

リツはとりあえず電話してやった。

半コールで「もしもし?どうした?なにした?」

「何にもしてねーよ」

「だだって、ううう海だろ?」

「そうだよ、浜辺でひざまくら」

「ふざけんなよっ!あ、あ、ちょっと待って」

思わずデスクで怒鳴ったようだ。

慌てて移動している。

「ははは浜辺でって、はははは花さんはその、あの、び、び、ビキニとか…」

「アホか」わが兄ながら情けない。

「そんなわけないだろ!大人だよ?泳がないし、まだ冷たいし」

「あ、そうなの…?」

経験のない山田には想像がつかない。

アニメや漫画で海へ行くと、女子はだいたいビキニなるのだが…




車を返却し、リリーにLINEを送る。

スマホでワンオクを聞きながら駅へ向かう。

電車の中で夫からLINE

「今日は早く帰れそう」

「じゃあ、食事でも行く?」

「そうだね」

「何食べたい?」

「肉」

「じゃあ、焼肉ね」

今日は疲れたので外食はありがたい。

スマホでいつもの焼肉店に予約を入れた。


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