ハンカチ

いつもの料亭で向かい合う二人。

「先週は楽しかったですね」

「そ、そうですね…あ、先週お借りしたハンカチなんですが、洗って返すのもどうかと思って…」

小さな包みを差し出す。

「新しいの買ってきたんで、 受け取ってください」

「えっ、そのまま返してもらって良かったのに…気を遣わせてしまってすみません」

賞状のように両手で受け渡す。

「ありがとうございます。開けてみていいですか?」

「どうぞ」

嬉しそうに包みを開ける花にすかさず聞く。

「前のハンカチは処分してしまっていいですか?」

「はい、そうして下さい」

(よし)山田小さくガッツポーズ

「わぁ、素敵。この色、あの映画のヒロインのワンピースに似てる…」

「そうですよね。僕もそう思ったので、これに決めました」

「山田さん、ちゃんと自分で選んで下さったんですね。嬉しいです。ありがとうございます」

「あ、いえ、喜んでもらえて良かったです」

食事を続けながら、山田が切り出した。

「それと…来週、お願いがあるんです」

「はい、何でしょう?」

「実は…僕の弟も一緒に食事をしたいと言い出しまして…」

「弟さん、いらっしゃるんですか?」

「はい…5歳下の弟がいます」

「そうなんですね。ここで三人で食事ってことですか?」

「はい、大丈夫でしょうか…?」

「えぇ、私は大丈夫です。でも、一度リリーさんに確認していただけますか?」

「はい、確認してリリーさんから連絡してもらいますね」

「ふふ、なんだか楽しみですね」

「はぁ…」山田は少し困ったように笑った。

「弟さんとは仲良しなんですか?」

「仲良し…というわけでもないんですが、ケンカもしません。5つも離れているので、あんまり接点がない感じです」

「そうなんですね。山田さんに似てますか?」

「いえ、完全に真逆です。見た目も、タイプも」

「真逆?」

「弟はイケメンで、やり手なんです」

「ふぅん…山田さんもイケメンですよね?タイプが違うのですか?」

「えっ!?ぼ、ぼくはイケメンでは…」

「やっぱり!山田さん、自覚ないんですね。ちょっとイメチェンすれば全然変わると思いますよ」

「は、はぁ…」

花が箸を置いて言った。

「そうだ、今度一緒に洋服選びに行きませんか?美容室にも行きましょ」

「え、ぇぇぇ…」

「ダメですか?」俯きがちな山田の顔を覗き込む。

花と買い物デートがしたい。

ものすごくしたいので、見せられない顔になっているのを俯いて隠し、やっとのことで

「わかりました」と答えた。

休みを申請するのに、何と言ったものか。

もう親戚は殺せない。


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