ベッドに横たわる山田は花のハンカチを顔に乗せた。しばらく微睡んでいると、ドンドンとノックされ慌ててハンカチを枕の下に隠す。

「は、はい」

弟のリツが顔を出す。

「おいっす。飯は食ったの?」

「あぁ、済ませてきた」

「じゃ、コレ」

缶ビールを差し出す。

「なんだよ…」

「いいじゃん、たまには」

椅子にまたがり、缶ビールを飲むリツ。

「で、さっきの何?」

「何って?」

山田もベッドに腰掛け、ビールを開ける。

「ハンカチだよ。誰の?借りたの?」

「誰でもいいだろ」

「彼女できたの?」

「違うよ!」

「じゃ、何なの?」

「何でもいいだろ」

「親父に言っちゃうよ」

「なんだよ!ほっとけよ!」

「ほっとけるわけないだろ!彼女いない歴年齢の兄貴に女の影なんて」

「お、俺だってなぁ!あれ、あれだよ…」

「ん?」




「レンタルおばさん?」

「うん」

「おばさんなの?」

「花さんは違うよ!」

「若いの?」

「俺より少し上かな…」

「ふーん、独身?」

「主婦…」

「人妻なの!?」

「うん…」

「ダメじゃん」

「べ、別に付き合う訳じゃないから…」

「うーん…そっかぁ。じゃあ 一回会わせてよ」

「な、なんでだよ!」

「オレもランチしたい」

「だからなんでだよ!」

「だって、オレ兄貴にそんな豪華なランチ連れてってもらったことないよ!」

「そ、そうだけど…」

「おにーちゃあん!」

腕にしがみつく。

「なんだよ、やめろよ!」

「おにいちゃあん!」

抱きつき、キスしようとする。

「わかった、わかったから!」


彼女いない歴年齢。

大学は理系で女子が少ない中、さらにサークルはロボ研で女子0。高校は男子校、もちろん中学生の多感な時期に異性との交流なんてあり得ない。

見事なほど女子との接点がないまま、社会人になった。もう、話し方すら分からないときに花さんに出会った。今年で35。ある意味、ギリギリだったかもしれない。

リツに会ったら…

花さんはどう思うだろうか?

リツはイケメンで女性の扱いにはなれている。リツの影に霞むことは、いつものことだ。

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