弟
真っ暗なオフィスに山田が浮かび上がる。
深くため息をついて、つっぷした。
カバンから花のハンカチが覗いている。
取り出して匂いを嗅ぐと傍らに置き、仕事をはじめる。
すっかり遅くなり、玄関を開けると
弟が階段に座って電話している。
「あっ、はいはい、ちょっと待って」
「ペンある?」
カバンを探り、ペンを渡す。
「サンキュ」
「いいよ、あー、はいはい、了解。じゃね」
「ありがと。おかえり」
「あぁ」
山田がペンをカバンに戻すときに、チラッと見えたものをつまみ上げる弟。
「これなに?」
ジップロックに入った花のハンカチだった。
「やめろよ!」
慌てて取り返し、カバンにしまう。
「だから、なにそれ?下着?」
「違うよ!」
「じゃあなに?まさか盗んだ?」
「そんなわけないだろ。ハンカチだよ。借りたものだよ!」
階段をかけあがり、自室のドアをバタンと閉めた。
風呂上がり、花がソファーでワインを飲んでいると、夫がやってきてソファーに横たわり花の膝の上に足を乗せる。
花も反対側に横たわり、夫の体の上に足を投げ出す。
夫の土踏まずを親指でグイッと押す。
「痛い!痛い!」
「んふふー」
「やめてぇぇぇ!」
「じゃ、やめるね」
「やめないでぇぇぇぇ…」
花も足首をクイクイと動かしてツボ押しを催促する。
夫が花の土踏まずを親指でグイッと押す。
「いたーい!」
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