約束

リリーからLINE。

「お疲れ様です。来週ですが山田さんにご指名いただきました。時間、場所は前回と同じです。次は遅刻しないでね!」

「わかりました。前回はすみませんでした。今回は必ず時間前に行くようにします」



火曜日正午

今回は遅れず、早めに到着して座敷で待つ。

ランチ懐石はすでに並んでいる。

「失礼します」

襖を開けて山田が入ってくる。

「こんにちは。今日はご指名ありがとうございます」

「あっ、こんにちは。指名なんてしちゃってすみません…」

「いえ、嬉しかったです。私も、山田さんともっとお話してみたかったし…」

「そ、そうですか…」緩みそうになる口許をぎゅっと引き締める。

席につき食べ始めた時、ふいに花が質問した。

「山田さんは、お休みはどうされてるんですか?」

「えっ」突然の質問に箸を落としそうになる。

アニメキャラだらけの自室でフィギュアに色づけする自分が脳裏に浮かぶ。

「ど、読書とか、映画観たり…」自分でも驚くほどスラスラと嘘が口を突く。

「映画いいですね!私も好きです。でも、一人で観るのはなんだか寂しくて」

「そうだ」花は箸を置いて言った。

「今度、一緒に観れたらいいですね」

「はぐっ」

山田は喉を詰まらせた。

「大丈夫ですか?」おしぼりを差し出す。

「ゲフン、ゲフ…ありがとうございます」

「私、変なこと言いましたよね…」

「いえ、映画、行きたいです」

花は嬉しそうにニッコリ笑った。が、内心動揺していた。思わず一緒にと言ってしまったけど、大丈夫かしら、私…。

「でも、お昼の休み時間では観れませんね」

「半休とります」

「大丈夫ですか?」

「はい、何とかします…」

「無理しないでくださいね。 ダメならまた今度でも…」

「僕も、映画観たいんで」

「そぉーですよねぇ…」

「観たい映画、ありますか?」

「山田さんにおまかせします」

「じ、じゃあ探しておきます」

「楽しみにしてます」そう言って刺身を口に運ぶ。

流行りの映画分からない…

沸き立った困惑はすぐさま脇に追いやられ

山田は、花の口許から目がそらせない。




昼休み明け

眉間にシワを寄せた上司に半休を申請する。

「忙しいの分かってるだろ。なんで半休?」

「ちょっと用事が…」

「だから何の用事?」

「親戚の法事で…」

「はぁ?なんで平日?」

「僕が決めたわけでは…」

「いいよもう。仕事はちゃんと片付けろよ」

「はい…」



終業間際

「山田さーん、これお願いします」

「あ、はい…」

「じゃ、お疲れっす」

「え?」

「お疲れさまでーす」

「お先でーす」

当たり前のように残務を押し付けて帰る同僚。無関心な同僚。束になって出てゆく。

一人、ぽつんと残る山田。

ストンと座る。

キーボードを叩く音だけが響く。

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