レンタルの理由

中居さんに溢れたお椀を取り替えてもらい、

落ち着いた二人は少し肩の力が抜けて、二人でクスクス笑い合い、話もしやすくなった。

「花さんは主婦…ですか?」

「そうです。専業主婦です」

「どうしてレンタル…を?」

「前に、記事で読んだんです。記者の方が実際に体験してレポートされていて。赤ちゃんがいるママの買い物に同行したり、公園に一緒に行ってサポートしたり。そういうことなら私にも出来るし、役に立てるかなと思ったんです」

「へぇ…じゃあ、まさか僕みたいなのと食事するなんて、想定外でしたよね…」

「でも、そういう想定外も面白いと思うので、この仕事をしようと思ったんです」

「ご、ご主人は賛成されたんですか?」

「最初はやっぱり、やめてって言われたんですけど、変な感じだったらすぐ辞めるからって…基本的に私の好きにさせてくれる人なんです」

「いいご主人なんですね」

花は、ふふと照れくさそうに笑った。

「山田さんは、いつもここでリリーの方とお食事されているんですか?」

「そうですね、週に一度ですね。」

「そうなんですね…」

山田が空気を察して話し出す。

「僕、母親を早くに亡くしていて。年配の女性と食事するのは、母がいたらこんな感じなのかなぁ…って。は、花さんはお若くてビックリしました。」

「あっ、チェンジですか?」

「いや、大丈夫です。ただ、若い女性に免疫がないので…」

「私、若くないですよ。レンタルおばさんですから。」

「いえ、わ、若くて、おキレイで…その…えっと…」

花がクスクス笑う。

山田も、もごもご言いながら笑う。


「美味しかった!こんな豪華なランチはじめてかも」

「あ、もう時間ですね。行かなくちゃ」

「ごちそうさまでした。ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました」

足早に出ていく山田を見送る。



花は初仕事が終わり、帰り道にリリーにLINEで報告をする。

「終わりました。今から帰ります」

自宅で家事をこなし、一段落ついて庭へ出て花に水をやる。

「あ、出てきた」

芍薬の芽が伸びはじめている。



終業間際

仕事が手につかなかった山田は残業することにした。

みんなが帰った後、リリーにLINEを入れる。

「今日はありがとうございました。来週も…」まで打って、手が止まった。


「花さんにお願いしたいです」


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