出会い

スマホにイヤホンを繋ぎ、音楽を聴きながら家事をする花。眼鏡にすっぴん。

午前中に家事を済ませ、午後は地域やPTAの仕事などをしているうちに子供達が帰ってくる。

休日はみんなの昼食と夫の世話が加わり、休日のほうが忙しい。毎日がこの繰り返し。



リリーからLINEの着信。

長文の就労規約の後に、来週のスケジュールが入る

「料亭…現地に直接か…」

試しに火曜日と金曜日だけ仕事を入れた。

習い事がなくて、下校が遅い曜日。

実働1時間、週2のパートで稼ぐつもりはない。社会復帰のリハビリだ。

働くのなんて、何年振りだろうか。




火曜日、正午。

正座で待つ山田は腕時計を見る。

正午を少し過ぎている。

目の前には、二人分のランチ懐石がすでに並んでいる。

「失礼します!」

「遅くなり、申し訳ございません!」

花が顔をあげると、山田は正座が崩れてのけ反った。

わ、若い…。自分と変わらない年頃の女性が来るとは思ってもみなかった。

「あ、は、はい、どうぞ…」席へ促す。

「失礼します。ホワイトリリーから参りました花です。宜しくお願いします」

「あっ、山田です。宜しく、お願いします。」

「すみません、お料理さめちゃいましたよね…」

「あ、いえ、召し上がってください」

「はい。ありがとうございます」

「いただきます。」笑顔で合掌する。

「うん、美味しい」

美味しそうに食べる花から目が離せない。

(食べ方…エロい…)

髪が邪魔にならないように、左手で毛先を押さえながら、顔を少し傾け、柔らかく開いた唇に霜降りの牛肉を差し込む。奥歯でゆっくり噛み砕き、唇についた肉汁を舌先で遠慮がちに舐めとる。

「すみません、私ばっかり食べちゃって…」

山田の視線に気付き、箸をおく。

「い、いえ、どうぞ!ぼ、僕もいただきます!」無駄に力が入る。

花はお茶を一口飲み、何か話さなくてはと切り出した。

「山田さんは、この近くでお仕事されているんですか?」

「は、はい!かか会社は歩いて3分くらいです!」

「そ、そうですか。どんなお仕事を?」

「えええSEです」喉が乾く。

「あっ!あちっ!」湯飲みを持ち上げようとした手が震え、お椀にぶつかって溢れてしまった。

「大丈夫ですか?」花がおしぼりで濡れてしまった山田のパンツを拭う。

「あっ、ああっ…」山田が上ずった声をあげる。

「あ、ごめんなさい…これ、どうぞ」おしぼりを手渡す。

「あの…ほんとに緊張してしまって…すみません。プライベートでこんなふうに女性と話すなんて無くて…」

山田はずり落ちたメガネを直しながらそう言った。

「私も緊張してます。初めてのお仕事なんで」ふふっと恥ずかしそうに微笑む。

「失礼します」次の皿を持った中居がやってきて、二人は慌てて席についた。

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