船出
オープンカフェにいるリリー。
スマホが鳴った。
「はい、リリーです。あ、着いた?ちょっと待って」立ち上がって見渡す。
「あ、アレかしら?ここ!手振ってます!」
気づいて手を振る。
「どうも、はじめまして。ホワイトリリー代表のリリーです。」
「はじめまして、藤木です。宜しくお願いします。」
「じゃ、まず履歴書拝見します。」
仕立ての良い革のバッグから履歴書を取りだし、手渡す。
「今はお仕事はされてないの?」
「はい、専業主婦です。」
「そう。希望はお昼の時間帯だけね。」
「はい、子供が帰って来るまでの時間帯でお願いします」
「わかりました。うちはね、オフィスは構えてないの。契約したスタッフとは、全てスマホで連絡してるのよ。LINEできる?」
「はい、できます」
「良かった。じゃあLINEで連絡します。」
「あの…採用ですか?」
「ええ、もちろん。うちはレンタルおばさんだけど、いいの?おばさんにしては若いけど。」
「はい、もちろん大丈夫です!採用ありがとうございます!」
「名前、どうしようか?本名って人はほとんど居ないのよね」
「花の名前だから…花ちゃんはどう?」
「花ちゃん、可愛いですね」
業務内容は事前にネットや電話で問い合わせて聞いている。
「レンタルおばさん」
おじさんもあるらしい。登録したスタッフが
依頼者の希望に添ってさまざまな業務をこなす。カフェで悩み相談から旅行の同伴まで、誰か友達がいれば済むことだが、こういうことで商売が成り立つ時代である。
スタッフは自分の空いた時間を切り売りする。利用者は手軽に利用したい時だけ利用する。winwinと言うらしい。
花は船に乗った。
不安と期待を孕んだ帆は大きく膨らみ
船はゆっくりと滑り始めた。
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