ラノベ=だから=大丈夫 ~俺TUEEEEの公式~
自己満足(みずみ・みちたり)
#1 カースト最下位でオタクの俺が、なぜか勇者になっちゃった件(前編)
#1 カースト最下位でオタクの俺が、なぜか勇者になっちゃった件(前編)
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「またラノベ読んでんの?きっしょ」
今日もクラスの女子から罵声が浴びせられる。俺はそれを無視して構わず
「きっとハーレムものだよ。主人公に感情移入してその気になってんのよ」
「まぁ
まだ長々と俺に何か言っている。
――韓流ドラマ見てるお前らも大して変わらねえだろうが……。
しかし反論したら負けだという理性が、俺の本音を喉元でせき止めた。
これは仕方のないことなのだ。――いつの時代もオタクは嫌われるのだ。教師だってそう。奴らもまたアニメやラノベを毛嫌いしており、俺がこうしていじめに
――ラノベも小説も、文字羅列の娯楽って面ではそう変わらないのにな……。
そんなことを考えたって仕方がない。
だってこれが時代の流れなのだから。
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俺の名前は
――クソ……ホントあいつら人の趣味に理解無いな……。
心の中で毒づきながら、俺は放課後の学校の廊下を歩いていた。もちろん一緒に帰宅してくれる友人などいない。
――このまま真っ直ぐ家に帰るのもいいけど、どうせ親に勉強しろコールを浴びせられるだけだし……図書室で書き溜めてたラノベを仕上げちまうのもいいかもな。
そう。俺はラノベを読むだけでなく、書くことも趣味にしていた。将来的にはなろうでブレイク……なんて夢を抱きながら。
俺は踵を返し、窓から差し込む夕日に照らされ、朱色に染まった廊下を走った。
図書室の引き戸を開けると、お馴染みの背表紙たちが俺を出迎えてくれた。が、人の気配はない。まだ五時代なので不自然といえば不自然だし、不気味といえば不気味だ。
――まぁ俺には好都合だけどな……。
適当に近くの椅子を引き出し、腰を下ろす。肩に掛けていたバックの中からペンケースとノートを取り出し、机の上に広げる。ノート紙の指触りと、シャーペンの冷たい感触が俺にどことない安心感を与えてくれた。
カチカチと芯の先を出し、ノートの上で滑らせる。これが俺の日課だ。
ざっと三十分ほど書いただろうか。やっとのことで『完』の字を書くことが出来た。
気晴らしにジュースでも買いに行こうかと思い、席を立った――そのとき。
「あら、何を書いてるの?」
「!」
背後で、若い女性の柔らかい声が聞こえた。
――しまった。いじめグループの女子か⁉
まずい。このままだと、ラノベを執筆していた噂を学校中にばら
――畜生……俺は何でいつもこう……。
握りしめた拳に手汗が滲む。俺は恐る恐る後ろを振り向いた。
「どうしたの?そんなに顔を蒼くしちゃって」
「……え?」
そこにいたのは、カーディガン姿の、二十代前半と思われる女性だった。
「あ……えっと」
状況が理解できない。――女子生徒じゃなかったのか。
「あ、ごめんね。驚かせちゃって。――私の名前は
「あ……そう、ですか」
俺はその艶めいた長い黒髪に見惚れた。
「そうジロジロとレディのバストを見るもんじゃないわよ」
「あ、す、すいません」
いかんいかん。
自然と胸に目が行っていたらしい。
「君、名前は?」
「えっと……二年C組外石淘汰です」
「何書いてたの? ――もしかして小説?」
レナさんが興味深そうに俺の後ろのノートを覗こうとする。俺は見えないように自分の体で覆い隠した。
「いいじゃない、見せてよ」
「いやぁ……見せられるほどの物では……――それに、小説じゃなくてラノベですし」
「ラノベ?」
レナさんが眉をひそめた。
――やっぱりこの人もラノベを見下す人間なのか……。
俺はなぜか裏切られたような気持になった。彼女に少しでも好感を抱いていなければ、こうはならなかったのかもしれない。
「最近の中高生って、そういうの好きだものね」
いや違う。むしろラノベ好きは少数派だ。
「ラノベねぇ……確かこの図書室にもあったと思うけど……」
「ほ、本当ですか⁉」
それは初耳だった。
「うん、確かこの辺りに……」
レナさんはすぐ近くの本棚の背表紙を指でなぞっていった。
「ああ、あったあった。これよ」
レナさんはその本を棚から一冊抜き出し、俺に渡してきた。表紙には、若い男女のイラストが描かていた。――不自然なことに、タイトルがどこにも見当たらない。
俺はその本を無言で受け取ると、最初の頁を開いた。
『 作・イラスト 自己満足』
やはりタイトルが書かれていない。
――というか、誰だ?この作家。聞いたことがない。自己満足?何て読むんだ一体。
「……なんですかこの本」
俺が訊くと、レナさんは
「とりあえず数ページ読んでみて」
――とだけ言った。
――…………。
仕方なく俺は頁をめくった。
『#1 カースト最下位でオタクの俺が、なぜか勇者になっちゃった件』
その王道かつ魅力的なタイトルに、俺はつい冒頭を目で追った。
『 俺は勉強も運動も学年最低のラノベオタクだ。
俺はその日、いきなり図書室で司書の女に剣で斬りつけられた。
「…………ん?」
目が覚めるとそこは、岩肌がむき出しになった、どこかの山の頂上だった。
「どこだ……ここ」
――俺は、死んだんじゃなかったのか。
目を擦りながら、俺は起き上がり、歩みを進めた。
「……おわっ!」
気がつけば足元は崖の先端にあった。眼下では砂漠が延々続いており、なかには動物の骨のようなものも見えた。
――危ない危ない……。
もう少しで本当に死ぬところだった。
俺は胸を撫で下ろすと、いきなり後ろから声を掛けられた。
「はじめまして、勇者様」
そこには、金髪碧眼の美少女がいた。 』
「へー……ちょっと興味が湧いてきました。――これ、借りれますか?」
俺は本を閉じ、レナさんに言った。
「うん、それは良かった。――じゃ……」
するとレナさんは、後ろで組んでいた腕を解いた。――その右手には――。
「――‼」
俺は驚愕を禁じえなかった。――なぜならレナさんのその右手には、銀色に輝く西洋の騎士のような短剣が、握られていたから。
「な、なにを……」
するとレナさんはうふふと微笑むと、笑顔を崩さないまま、こう言った。
「死んで」
露無レナはその短剣を、何の迷いも
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「はじめまして、勇者様」
そこには、金髪碧眼の美少女がいた。
「ああ、こちらこそ……て、勇者?の俺が?」
「はい」
その少女はさも当然というように無邪気に微笑みながら頷いた。
「あなたは一度死んだんです」
「死んだって……」
俺は額に掌を当て、記憶を辿った。
――そうか。俺はあの露無レナとかいう女に――殺されたんだった。
俄然怒りが湧いてくる。
――なんなんだあいつ。理由もなく、いきなり。――人を殺すなんて人間としてどうかしてる。
ではここは天国か地獄か?
俺は空を見上げる。青空の中に白い月が浮かんでいた。それ自体は大したことではないのだが、問題はその月が『五つある』ということだ。
――ああやっぱり。ここはいつも俺が暮らしていた地球じゃない。
「これは何かの悪い夢か……」
俺が独り言のように呟くと、少女は、
「さっきからゴニョゴニョと月並みなことばかり言っていますね」
と、呆れたように言った。
――なんだ初対面でいきなり。
「悪かったな、月並みで」
少し腹が立ったので、投げやりに俺が言い返すと、
「いいんですよいいんですよ、ラノベだから大丈夫です」
と。
――ん? ラノベ? どういうことだ?
言っている意味が判らない。
「つまりですね」
と、その少女は人差し指を俺にびしっと突き立てた。
「あなたはライトノベルの世界に転生したのですよ」
ラノベ=だから=大丈夫 ~俺TUEEEEの公式~ 自己満足(みずみ・みちたり) @kvn0210
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