第2話

 ようやく、二人は最初の目的地、熱帯雨林ちほーに到着した。そこでは川が流れている。

「ねえ、カバンちゃん、ここなら野糞に最適だよ!」

「う、うん……」

「ねえ、カバンちゃん! 早く野糞しなよ!!」

「うん、分かったから……そんな大声で言わなくてもいいんじゃないかな……」

「何言ってるの! 私たち、もうフレンズなんだから、遠慮しなくていいんだよ?!」

「うん、だから大声で言わなくても……」

「カバンちゃんは、声が小さいフレンズなんだね!!!!」

「……うん……」

 雑なごり押しであるが、このような場合は効果的だ。早く人間性を捨てて野生に染まるといい。サーバルちゃんはそう思っていた。

「ここなら、川もあるし、流せる上に洗えるよ!」

「そうだね……サーバルちゃんはきれい好きなんだね……」

ここでしばらくは牽制が続いたが、やがて我慢できなくなってカバンちゃんが切り出した。

「じゃあ、そろそろ出すから……」

「うん、遠慮なく出しなよ!」

「いや、ちょっとどいて欲しいというか……」

「何を言ってるの、わたしたち、ズッ友だよ!!!!!!!」

「うん、だから……」

「ズッ友だから、ずっとそばにいるよ、カバンちゃん!!!!!!!!!」

 ごり押しは最強の戦法である。排便の時もな。

 カバンちゃんは諦めたような微苦笑を浮かべると、

「うん……そうだね……ずっとそばにいてね……」

 と力なく言った。

 ようやく決心してズボンを下ろそうとした時だった。

「おいコラァ! ここは便器じゃねえんだよ!!」

 現れたのはカバさんだった。

「うわぁ!」

 突然の出来事に吹っ飛んで前のめりに倒れてしまうカバンちゃん。

 こんな程度でビビっているようでは、野生じゃ餌にしかなんねえぞ。

「おい、コラ、どこでクソしようとしとんのじゃ?! 人の家でクソするとかどういうこっちゃねん!」

「すいません……だってここならちょうどいいってサーバルちゃんが……」

 カバンちゃんがサーバルちゃんの方を見て言う。

「え、私そんなこと言ったっけ?」

「言ったじゃん……」

「言ったっていうなら、その証拠出して欲しいなぁ」

「ズッ友なんじゃ……」

「ズッ友だけど、証拠はいるんじゃない? 証拠もないのに責任転嫁とか、そんなの友だちじゃないよ」

「………」

 おおよそ議論しても無駄だと悟ったようである。カバは凶暴な草食獣だが、サーバルちゃんの戦闘力なら倒せない相手ではない。だから相手してもいいが、カバンちゃんのために戦うなどめんどくさいので嫌だったサーバルちゃんである。

「おい、お前ら、どうでもええから金払わんかい!」

「ええ~、そんなぁ、ごめんなさい、許してください……」

「ごめんで済んだら警察いらんやろ、な?」

「うぐ……」

 さて、めんどくさくなる前に退散するとするか。カバとか相手にしてる余裕はない。

「おいカバ」

「ん、なんや」

「ねえよ、んなもん」

「………?! お前、開き直りよって……! ぶっ殺したらぁ!」

「ひえ~~~~!」

 カバンちゃんが情けない声を上げる。

「カバンちゃん、カバさんが言うこと聞いてくれないね、こういうときにどうすればいいと思う?」

「ええ~、逃げるしかないんじゃ……」

「ん~、それも一つの手だけど、もっといい手段が、カバンちゃんのカバンの中に、あるんだよ!」

「え、本当ですか?!」

 カバンちゃんがカバンの中をゴソゴソ探っている。

 それを見たカバとかいうバカは、金をくれると思ったらしい。

「お、ようやく出す気になったか。素直にだせば痛い目みんで済むで」

 カバンちゃんはまだカバンの中を探している。なので、サーバルちゃんはカバンの中に手を突っ込んで、スタンガンを取り出してやった。

 試しにスイッチを入れてみると、派手な電流が飛び散った。それを確認したサーバルちゃんのうすら笑みが、昼間だというのに電流の青い光で妖しく照らし出された。

「じゃあね」

 サーバルちゃんはたった一言そういうと、なんの躊躇もなく水面にスタンガンを押し付け、電源を入れた。

 入れた瞬間、カバちゃんに電流が走る!

 13歳のガキに負けて卓に突っ伏した麻雀代打ちのような格好で、カバちゃんは地面に倒れこんで動かなくなった。

「え……これって死んでるんじゃ……」

「まさか、そんなことないよ! ジャパリパークは暴力禁止の平和な場所だから、大丈夫だよ!!!!! ちょっとお昼寝してるだけだから!!!!!」

「うん、そうだね……それなら大丈夫だね……」

「ところで、ウンチはしなくていいの?」

「……いや、もういいよ……」

「じゃあ、このまま出発だね!!!」

「うん……」

 カバはかろうじて死んではなかった。

「ダッテココハ平和ナじゃぱりぱーくダカラネ。ミンナ友ダチダヨ」

 クソロボットが抑揚も力もなく声を出した。勝手に〆やがって、お前はクソでも食って寝てろ、とサーバルちゃんは思った。

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けだものフレンズ セルコア @basyaumapony

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