けだものフレンズ
セルコア
第1話
「はぁ~、だっっる……」
サーバルは大きなため息をつくと、つけ耳を引きちぎってテーブルの上に投げ捨てた。
これからまた、殺風景な手抜き背景の中、かばんちゃんとかいうおバカちゃんを適当に持ち上げながら、旅をしなければならない。
「はぁ……マジで死ねよ……」
言いたい放題なサーバルの言葉は、夢の世界へ行ったかばんちゃんには届かない。
ロッジから夜空を見上げる。かつてキャバクラ嬢だったこともあって夜行性なサーバルちゃん……これからの旅を、このどんくさい人間とやっていかなくてはならないのは、かなり骨が折れそうだ。それに、今まで出会ったフレンズたちにも、ろくなやつがいなかった。だいたい、動物なんだから、そんな統率のとれた動きができるわけではない。しかも中には捕食・被捕食の関係もあり、旅は困難を極めた。ロッジの星空は綺麗だが、あの星々も近づいてみれば、巨大な核融合炉に過ぎないのだ。
それと同じで、遠く離れているからこそ動物は見ていて楽しいのであり、動物の能力を手に入れたとはいえ、檻の中に入ってしまえば色々汚い点も見えてくるものだ……
サーバルちゃんは煙草に火をつけると、深々と吸った。荒ぶった野生がだんだん静まってゆく。
――これからどうするかな――
そう考える前に、今までのことが思い出された。
「え……じゃあ、野糞するんですか……?」
「うん、そうだよ」
「そんな……ここってジャパリパークなんでしょ? テーマパークだったらトイレくらいあるんじゃ……」
いちいちうるせえ奴だな、と内心舌打ちするサーバルちゃん。これだから人間はいちいちめんどくさくて嫌になるんだよ。トイレなんてウンコする箱なんだよ。のど乾いたときに喫茶店でないとお茶が飲めないのか? 違うでしょ、だったら発想を変えて、さっさと自由にウンコしろよ。そんな環境にもすぐに適応できないとか、どんくさい人間だな――そう思ったが、それを口に出すほどサーバルちゃんはアホな子ではなかったので、最初は優しく諭すことにした。
「みんなやってるから、カバンちゃんもやってみなよ。大自然の中で排泄するの、すごい解放あっていいよ!」
と言いつつ、満面の笑みを向けた。もちろん、キャバクラ時代に身につけたテクニックの一つである。
「う~~ん……」
股間をもぞもぞさせながら、明らかに困惑した目でこっちを見てくるカバンちゃん。
そんな目をしたって、こっちはどうしようもねえよ。
「……ほら、早くスッキリしなよ!」
とりあえず催促しておく。どうせここでは野糞以外の選択肢はない。ジャパリマンだろうがなんだろうが、食ったものはやがて全てクソになるという自然の摂理こそが、ここでは絶対王者なのだ。
カバンちゃんはかなり苦労して便意を抑えているようだ。かなり悩んでいるが、やがて一つの妥協案に達したようだ。
「もうちょっと、我慢するよ……ここは草原だし、拭くものもないし……」
まあ、それは確かにそうかもしれない。これから少し歩けば、熱帯雨林ちほーにたどり着く。そこなら川もあるし、いくらでも流せばいいだろう。
「じゃあ、早く次の場所にいこっか。もし我慢できなくなったら、いつでも言ってね!」
もちろん、満面の笑みは崩さない。キャバクラテクは野生のように体に染みついているのだ。
「う…うん……」
「本当は我慢しない方がいいんだけどね。カバンちゃんがそういうなら仕方ないよね!」
「うん……ごめんね……」
「謝ることはないよ、さぁ、熱帯雨林ちほーに出発だね!」
ちなみに、カバンちゃんは最後まで我慢した。これだけは素晴らしい忍耐力だと誉めたい、サーバルちゃんだった。
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