ボクらの恋
@hiyayakkoo10
マーメイド・ストロベリー
お姫様になりたかった。
可愛くて綺麗な誰からも愛されるお姫様。
そんなお姫様には素敵な王子様が現れて、いつまでも幸せに暮らすんだ。
でも、俺の王子様は俺じゃないお姫様を選んだ。
俺の方が可愛いのに。
俺の方がお前のこと好きなのに。
俺の王子様になってくれるって言ったのに。
そんな言葉は泡となって消えた。
「隆と咲希がでーとしてた」
プールサイドに腰掛けて、足をばたつかせる。飛び跳ねた雫が顔に当たって、ほんの少しだけ肌寒さを感じた。
隣で仕方が無いなぁ、とでも言うように部長の汐見渚は俺の顔についた水を掬いとる。
その姿は有名なラブロマンス映画のワンシーンの様で、思わず胸に鈍い痛みが走った。
こんなことでトキめくだなんて、自分の恋愛脳に嫌気が指す。でもこんなに格好良い、まるで王子様の様な人が、何の躊躇いもなく肌に触れてきたら、誰だってそうなるだろう、とも思う。
「校内でも有名なカップルだよ?普通にデートくらいしてるって」
「それは、そう…だけど」
「嫉妬してるの?」
「…嫉妬、というか…」
隆は俺の幼馴染。俺の恋愛脳の元凶。お姫様願望も併せて植え付けてくれたのだから、憎むべき相手だ。今でも彼と出会わなかったらと、夢想することもある。
でも、あの時確かに俺を救ってくれたのは彼で、俺にとっての王子様だった。
王子様はお姫様と結ばれるのだと、盲目的に信じていた。
だから、隆が咲希を紹介してきた時に感じたのは、紛れもなく失望だった。
恋人が出来て幸せ絶頂に居るはずの親友におよそ向けるべきではない感情。
それでも、俺は気持ちを切り替えて祝福した。
親友の恋人だから、お前も親友だな!
なんて、自分でもバカだと思う。
誰が好き好んで自らの傷口にカミソリを突き立てる奴が居るか。
咲希とも交流を持つことによって、二人の関係性が良く見えてくる。
二人が初めて手を繋いだ時も、初めてキスをした時も、手に取る様に分かった。
ズキズキと自分の心が壊れていくのを感じた。
大好き。本当に大好きなのに、心がそれを否定する。
一層の事嫌いになれればとも思ったのに、隆が浮かべる笑顔に、また俺は性懲りもなく好きになって。
そうして気づいたのは、隆も咲希も驚く程にお似合いで、切り裂く理由さえ見つけられない程に幸せそうで。
俺はそんな二人を遠巻きで静かに眺める事しか出来なかった。何も出来なかった。言えなかった。
もしもあの時、咲希を紹介された時。
泣き叫んであの男の唇にキスの一つでもしてみれば、何かが変わったのだろうか。
こんなぬるま湯の様な友人関係を続ける事も無かったのか。
そう何度も自問しては目を瞑る。
「どっちも好きだから、困る」
これは紛れもない本心だ。隆も咲希もどっちも好き。
二人とも俺に優しくて、いつだって真摯に接してくれる。そんな二人だからこそ応援していきたい。
幸せを願わずには居られない。
なのに、嫌な自分が顔を出す。
「そうだなぁ……隆くんと咲希ちゃんのことは私にはどうすることも出来ない。これは水瀬の心の問題だからね。」
「……おう、分かってる」
「でも、悲しい顔はして欲しくないんだ。私のお姫様はとびっきりキュートな笑顔が1番似合うからね」
「胡散臭いセリフ」
「でも好きでしょ?こういうの」
「……大好き」
王子様がキラキラな笑顔を振りまいて頭を撫でてきた。
これで恋に落ちないとか言う奴が居たら、そいつは嘘つきだ。こんなの、誰だって好きなる。
「だから、お姫様。私とデートしてくれませんか?」
手の甲にキスをされた。
まるで自分がお姫様になったかのようなその仕草に、満たされるのを感じる。
俺の求めていた王子様がそこにいた。
「喜んで。俺の王子様。」
ただし、お姫様は一人じゃ無いけれど。
これが俺だけの王子様だったなら完璧なのに、と隠れてため息を吐いた。
ボクらの恋 @hiyayakkoo10
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