第8話 できない事

 

「今日も平和で、暇だなぁ」

「アレンジいれてますけど、結局暇なのですね」

「暇なんだから仕方ねぇだろ?!暇な人の気持ちになれよ!」

「そんな理不尽初めてですよ?!」


  今日も魔王は、玉座の間に居座る、勇者が現れるのを待つために。

  そして、隣には任務を終わらせ暇を持て余しているアイラが佇んでいた。


「なぁ、アイラ。俺ってどういう存在だと思う?」

「何ですか急に……。そうですね、何でもできるお方だと思います。魔法なんかが良い例ですね。時間操るじゃないですか」

「あれは俺の魔力が満タンな時にしか使えない、燃費の悪い魔法だけどな。まぁ、確かにほとんどの魔法使えるしなぁ。暇な時はオリジナルも作るし」

「いつも暇じゃないですか」

「あぁぁぁ!言っちゃいけないこと言った!ニート魔王に対して言っちゃいけないこと言いましたよ私の幹部!」

  「ニートって自分で言っちゃってるし……」


  はぁとため息を吐くアイラ。もう少し威厳を持ってほしいと言わんばかりのため息だ。


「そういえばこの部屋って無駄に広いよなぁ。狭くしちゃおうっかなぁ」

「そんな事できるんですか?」

「一応魔王だからなぁ。ちょちょいと魔法使えば狭めることぐらい造作もないさ」

「すごいですね……」

「そりゃ魔王だからな!だからお前たちも俺についてきたんだろ?」

「そうでした」

「忘れてたのかよ?!」

「仕方ないじゃないですか。もう何十年もニートしてるのに魔王の風格が備わってるとでも言うんですか?」

「お前ほんと容赦ないな」

「それが私の取り柄みたいなものですので」

「そんな取り柄いらねぇよ!」


  今度は魔王がはぁっとため息をつく。話すことすら疲れたのか頬杖をし、ぼーっとしだす。

  (この部屋どう狭めようかなぁ)


  そんなどうでもいい事を考えながらぼーっとする。


「目死んでますよ?」

「ニートの目は死んでるのがお決まりだからな」

「魔王の威厳はどこへやら」

「ニート魔王なんかに威厳とかあると思う?」

「自覚済みなら世話ないですね」


  アイラはまたため息をつく。


 

  魔王様はなんでもできる。

  先代の魔王の息子という事もあり、元々の魔力にも恵まれ今や新たな魔法を作ってしまうほどの才を持つ。

  決して魔王様は「先代の魔王の息子だから」という理由で魔王に選ばれたわけではない。他の魔族よりも任務を遂行し戦果を挙げ、誰よりも忠誠を尽くしていたからである。

  しかし、魔王様が外界に行ってる最中に勇者一行が魔王城を攻め、魔王様以外の先代魔王、幹部は全員殺され壊滅状態に追い込まれた。戻ってきた時には魔王様は敗れ、勇者一行の姿しかなかった。

  そこで魔王様は魔王軍を立て直すために自らが魔王となり軍を統率している、という話を聞いた。

  今はあんな風だが、戦いとなれば……。


  戦いになっても私たちは必要なのだろうか。当たり前だが魔王様はとても強いお方だ。国1つ滅ぼす事など造作もないことだろう。なら、私たちは要らないのではないか。度々そう考えてしまう。

  私はたまたま拾われた身、本当なら死んでもおかしくなかった。魔王様がいなかったら今の私はいない。

  なんで、私なんかを拾ったのだろうか。


「……イラ?、アイラ?」

「?!、は、はい?なんでしょう?」

「いや、ボーッとしてたからな。たまにそういう時あるぞ?お前」

「し、失礼しました!」

「気にするな、そういう時もある」


  魔王はそう言って笑いながら、急に右腕を前に伸ばし、手に魔力を込める。膨大な魔力を玉座の間に巡らせ、それを外側から圧縮しようとする。


「な、何を?」

「言っただろ?部屋広すぎるから狭めるんだよ」 「あー、言ってましたね……」


  複雑な魔法のはずなのにこんな簡単に、そう思いアイラは改めて魔王の素晴らしさ、そして自分の価値の無さを実感する。


「あのな、アイラ」

「はい?」

「何を思っているのか知らんが、俺はお前が必要だ。だからあの時お前を拾ったんだ」

「……」

「まぁ、正直言って魔王軍は俺1人で統率できるだろう」

「ならどうして?!」

「俺が統率できる方法はただ1つ。圧倒的魔力での恐怖。これで統率できる」

「?!」


  その時の魔王の殺意なのか威圧なのか、アイラは体を震わせた。


「今のでわかっただろ?でもな?こんな統率の仕方、何も楽しくない。俺はしもべたちと笑って過ごしたい。誰かがこの城を攻めて来た時はそりゃ必死こいて戦う事になるだろう、辛くなるだろう。でも、せめて戦わなくていいこの時ぐらいは笑って過ごしたい。俺は恐怖以外で統率する方法を知らない。だから主にお前たち幹部に軍の統率を頼んでるだろ?」

「……ええ、確かにそうですね」

「だろ?だからお前は必要だ。他にだってお前は仕事できるじゃないか。それによ、お前が仕事ができなくたってお前が必要じゃなくなることなんてないんだよ。なんだからな」

「か、家族、ですか?」

「そうだ、家族だ。お前を拾ったあの時からお前は俺の家族だ。ブラッディとシャリーそしてお前。お前達幹部3人は俺の家族だ。苦楽を共にし助け合う。それが家族であり、俺たちの作った魔王軍だ。だから価値がどうこうとか考えるな」

「魔王様……!」


  魔王の温かさを感じたアイラは目に涙を浮かべた。

  アイラは家族に捨てられたドラゴンだ。

  ドラゴンは子を2匹以上産んだ場合、それらを産んで10年後に産んだ子達同士で戦わせ、負けたものは強さを求めるために巣から旅立たないといけないドラゴンの掟がある。

  アイラはその掟の戦いで負け、魔力の消費量の少ない人型の姿で徘徊してるところを魔王に拾われて今に至る。掟のせいでアイラは心の中で勝手に家族は醜いものだと判断していた。しかし、今まで大事にされていた理由が家族だからという事を聞き、アイラの中での家族のイメージが変わった。家族というものの素晴らしさを知った。一生魔王様についていく、改めて決心した瞬間であった。


「あ、やべ」

「え?」


  ズドォォォオオン!!

  轟音が鳴り響いたかと思ったら、目の前には魔王城の外の森林が辺り一面見渡せるようになっていた。


「喋りながらやってたら、ヘマした。テヘペロ」

「ま、魔王様ぁぁあ?!」

「ほ、ほら人にはミスはつきもんでしょ?」

「あなたは魔王でしょ?!」

「そ、そうでした」


  締まりが悪いなぁ、そう思いため息をつくアイラだった。

 

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勇者が来ないので、今日もスローライフを満喫してます フユヤマ @1251643

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