義理の兄妹の話

義理の兄妹の話

 今は離れ離れになっているけれど、自分にも兄がいると姐さんは話してくれた。

 俺と違って血の繋がった兄妹ではないらしいけど、姐さんにとって何より大切で、誰より愛しているという、そんな兄がいるらしい。

 この話をするとき、姐さんは決まって泣きそうな表情になるから、俺はあまりその人の話を聞くことはできなかったけど。

 それでも、そのときの姐さんの表情はとても柔らかくて。姐さんの話の中に出てくる『タオ兄』『姉御』『新入りさん』……他にも何人かの仲間のことを、本当に大切そうに話すものだから、俺は姐さんがどれだけあの人たちのことを愛しているのかがよく分かった。


 美人で気品にも溢れて見た目だけなら一級品のお嬢様なのに、よく迷子になるわ、大食いだわ、すぐ調子に乗るわ……。姐さんからは『ポンコツ』だと称された、『姉御』こと『調律の巫女』のレイナ・フィーマン。

 地味で目立たなさそうな顔なのに実は自分の信念に対してはすごく頑固、仲間思いで、面倒身がよく、とにかく優しい人。それから、『姉御』といい感じだったという『新入りさん』ことエクスさん。

 最初は敵同士で、姐さんとは命を狙いあう関係にあったはずなのに、なんでか義兄妹として一緒に旅をするようになったという。一番長い間一緒にいて、けれど一度は離れてしまって。それでもずっと大好きで、大切だったという、『タオ兄』。


 姐さんが昔話をするときの七割はこの『タオ兄』の話だった。あの想区でどうしたとか、姉御とのリーダー争いがーとか、カーリーさんがーとか、そんな他愛もない話だったけど、姐さんは決まって泣きそうな顔をしていた。

 姐さんにとっての兄さん。

 それはつまり、俺にとっての兄さんでもあるんじゃないかな、と。

 まだ見たことのない兄さんの姿を思い浮かべて、らしくないことを考えたとその考えを頭の隅に追い払った。

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不器用なきょうだい達の話 雨宮羽依 @Yuna0807

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