第7話 異聞て遺文アラビア

      1


 惣戸杏里耶と思われる少女は。

 なんとか一命は取り留めたが意識が戻らないまま。

 二週間が経とうとしている。

 この二週間で僕がしたことは。

 課長の私物の片付けがてら。

 本部を間借りしている掘っ立て小屋からの引き上げ。

 前というか現課長の命令で。

 対策課がなくなったわけではない。対策課の本部が、

 祝多出張サービスが所有するビルの2階の空き店舗に移った。

 民間委託。

 本部長はいつでも戻ってこいと言ってくれたが。オズ君とかいう本名の胡子栗にのみ、言ったのだとは思うが。

 戻ってこいということは。すでに僕は、

 そちらの側にはいないと。

 そうゆう。

 紛らわしい手帳。道理で警察内での知名度が低いわけだ。

 新設のマイナ部署だからではなく。

 警察ではないから。

 察す。

 自宅にて。出勤拒否じゃない。

 お宅のお子さんは決して登校を拒否しているわけではなくただ単に登校しないだけなのです。それだけなのです。自称カウンセラどもが発明した業界最強のモラトリアム。不登校。

 不出勤。

 気がついたら昼を回っていた。13時07分。

 テレビが点いている。

 灼熱のマウンド。

 消し忘れた覚えはないし、点けた覚えもないし。

 いい音がした。

 かきん。

 序盤からホームランとは幸先のいい。決勝戦。

 そうか。

 もう決勝なのか。ついこないだ開会式があったように思ったが。

「どちらが勝つか賭けませんこと?」スーザちゃんの声がした。「勝ったほうが負けたほうにキスをするというのは」

「それ賭けになってないね」

 どうしてスーザちゃんがいるのか。

 考えるだけ無駄だろうから。

「どうしてわたくしがここにいるのかお聞きにならないの?」

 スーザちゃんはワンピースじゃなかった。ついいつもの流れで今日は何色なのか確かめようとした僕が愚かだった。

 透明というか。肌色といったほうが。

「あのさ、昨日の夜だけど」聞きたくもないけども。

 いや、そんなまさか。

 まさかだ。

「わかってはいたのですけれど」

「何がだろう」想像はつくけれど。「どこかに胡子栗いない?」タオルケットをまくり上げる。

「いたのですね?」

「ドッキリでしょ?」よかった。いなくて。

 はあ。とスーザちゃんが大きな溜息を。「ムダでしたわ。ムダさんの特殊な性癖についてわかってはいたのですけれど。そうでなければよろしいのにと疑っている節もございまして」

「裏を取ったと」

「ええ。ママの仰っていた通りでしたわ」

「祝多さんが?」てゆうか彼女が?

 バラしたのか。

 牽制だと思いたい僕もいて。いやいやそれはあり得ないことが胡子栗によって裏付けされてるわけで。

 現実逃避がてら試合状況を確認。

 どうなるかわからない。

 何が起こるかわからないのが夏で。

「どうしてわたくしがダメでママやボーくんならおよろしいの?」

「言ったほうがいい?」

「どうせ生えてませんわよ」

「そうだっけ?」

 スーザちゃんに睨まれる。「あんなに強くまさぐりましたのに。まだそんなことを仰いますの?でしたらご覧になったらよろしいのですわ」立ち上がった。肌色で透明のまま。

「いいから。服着ようよ。ね?」見ない見ない。見ないぞ。

 何をやってるんだろう。こんな真昼間から。

 スーザちゃんも気づいてくれたようで。「失礼しましたわ」静かに座る。「本日伺いましたのは、惣戸杏里耶さんがお目覚めになりまして」

「いつ?」

 スーザちゃんが服を着始めたので、後ろを向くことにする。何もかも見ておいて何を今更だが。

「大丈夫なの?なにか喋った?」衣擦れの音がしなくなってから訊いた。

「お行きになります?」スーザちゃんは、ケータイにストラップ化させていたキーで。課長に誕生日プレゼントにもらった曰くつきのあれだ。

 僕の家の鍵を閉める。

「ちょっと待って」

「どうされましたの?お忘れもの」スーザちゃんが。

 たったいま閉めたばかりの鍵を開けてくれる。

「なんだかなあ」僕のプライヴァシィゼロ。

 国立更生研究所。

 もともとここは医療施設だったらしい。瀬勿関先生も精神科が専門だし、他にも外科医と看護師が常勤している。

 白い病室に。

 惣戸杏里耶がいた。

 上体を起こしている。

 白い横顔と白い腕で。腕が白いのは主に包帯のせいだが。

 虚空を見つめている。

「喋っても?」惣戸杏里耶に聞こえないように尋ねた。

「なんのために来たんだ」瀬勿関先生がスーザちゃんを見てやれやれと首を振る。

 ここでの奇抜で過激な格好にもやは誰もツッコまなくなっている。僕がツッコむべきなのか。艶めかしいレェス。

「主治医は私だ。駄目なら本人がそう言う」

「話しかけてもいいですか」惣戸杏里耶に聞こえるように尋ねる。

 こちらを見た。

「誰ですか」

「徒村です。ちょっと前まで国際的にケーサツやってました」

「すみません。どこかで?」

「思い出してもらえないならいいです。別段大した面識も」

 記憶が戻っていないのか。僕の出方を見ただけなのか。

 瀬勿関先生はドクタストップを言い渡さない。戸口で傍聴人と化している。

「惣戸杏里耶さんですね?」本人確認。

「ソウコちゃんは元気ですか」

「有谷霜子さんのことですか?」スーザちゃんに振る。

「元気ですわ。いくつか伺いたいことがございますの」スーザちゃんが僕にパスをくれる。「答えたくないことでしたり、思い出せないことはその都度仰ってくださいな」それだけ言うと、瀬勿関先生の隣まで引いた。

 おそらく、というかやはり。瀬勿関先生とスーザちゃんはすべてを熟知している。知らない僕が、

 知りたいことを自由に尋ねる特別出血大サービス企画を設けてくれた。

「あなたは惣戸杏里耶さんですか」これだけはどうしても。

 明らかにしておきたい。

「たぶん」小さく頷く。

「○○駅のホームにつながる階段で、有谷霜子さんに突き飛ばされたことは憶えていますか」

「ソウコちゃんが?そんな。何かの間違いです」少女はこめかみを押さえてじっと。「すみません。ちょっと」眼を瞑る。

「大丈夫ですか」記憶が蘇ったか。

「はい。すみません。もう平気です」少女は眼を開ける。「ソウコちゃんが行方不明で。わたし心配で。すぐにケーサツの人が来てくれて。それで」

「そのときに来た警察の人は。名前がわかりますか」

「ケーサツの人じゃないんですよね?」僕に訊いている。

 僕の身分。

「そのようです。不本意ですが」

「クビになったんですか」

「出る杭は打たれると、そうゆうことですね」自分で言っていて嫌なことわざだったが。

 誰も否定しないので言い得て妙なのかもしれない。

 僕は否定したい。僕がそんなに抜きん出ていたとは思えない。

 なにせ。その証拠に、

 彼女はこの世にいない。

「本当に警察官でしたか?手帳を見せましたか」よくある詐欺の手口だ。ケーサツ署のほうから参りました。

「そこまでは。でも親身になって話を聞いてくれました」

 胡子栗が親身になって話を聞いている様子が想像できないから。

 課長か?

「中年の男ですね」

「いいえ。女の人です」

 誰だ?

 スーザちゃんにアイコンタクトしたが首を振られる。

 自分ではないという意味なのか。知らないという意味なのか。訊かないでくれという意味なのか。瀬勿関先生があさってのほうを向いているところからすると。

「妙に大きくなかったでしたか?」態度が。

「あ、はい。スイナさんより大きかったような」胸囲か。

 胡子栗だ。

 シュミじゃないんじゃなかったのか。仕事か。

 ああ、そうか。

 仕事だ。仕事には違いない。対策課の。

「会えたところまでは憶えてるんですが」有谷霜子に。

「有谷霜子さんもあなたのことをソウコちゃんと呼んでいた気がしますが」

「いけませんか?」

「いえ、そういう意味でなくてですね。紛らわしくないかなあと」

 完璧に余計なお世話だった。

 少女もあきれて。僕以外を見る。

「次に無駄なことを言ったら退場だ」瀬勿関先生が脅しを掛ける。

「この地下に有谷長名がいる」言っていいのかわからなかったが。言うなとも言われていないので。

「行方がわかったんですね?」少女が言う。

「有谷霜子さんは、君に父親を奪われたと思い込んで」

「ソウコちゃんはお父さんに歯の治療をしてほしかっただけだと思いますけど」

「それで保険証を貸したの?」

 有谷霜子が。

 惣戸杏里耶になるために。「ねえ、君たちいつから入れ替わったの?」

 少女は誰もいないほうを見る。

「いまの君はどっち? どっちがどっちに突き飛ばされたの?」

 瀬勿関先生がほくそ笑んだのが見えた。

 僕は及第点をもらえただろうか。


      2


 有谷小児歯科クリニック。

 平日の午前診察が終わる七分前に着いたが、患者がまだ十人ほど待機しているという。なかなかの大盛況。

 仕方なく僕も待たせてもらうことにする。時折ドリルの金切り声が聞こえる診察室で。

「すみませんね。時間も守れなくて」有谷歯科医が顔を出す。マスクを外すと本当の年齢が察知できる。

「待ちきれなくなったら帰りますので」半分嫌味。

「それは参った」冗談と解したようだ。

 待機中の一人が診察室に呼ばれる。銀髪の老婦人。どう見ても歯医者に歯の治療に来る服装ではなかった。この後控えるのっぴきならない会合に際し、一旦家に戻る手間を省きたかっただけだとは思えない。

 午前の部の最後の患者は、女子中学生。高校生か迷ったが、発育の途上の感じからいって。まだまだ上るべき坂は長い。

 クリーム色のシャツにネイビーのネクタイ。同じ色のスカート。はて。どこの制服だったか。

 少女は静かに雑誌を読んでいる。ファッション誌。早くも秋物の特集をぶっている。

 老婦人が戻って来ないまま、少女が呼ばれた。椅子が複数あって同時並行的に患者を診るのだろう。

 二十分後に老婦人。三十分後に少女が戻ってきた。

 二人が順番に会計を済ませて。

 診察室から有谷歯科医が出てくる。「お待たせした。どうぞ?」

「保険証持ってないんですよ」

「実費だね」ジョークの切り返しに手練ている。

 さあ椅子に座れエプロン付けてやるから、と言われたときの脱力系断り法を即座にシミュレイトしてあったが。ムダに終わる。スタッフオンリのドアの向こう。

 書類の積み上がったデスクと。簡易ソファ。くたびれたクッションと色褪せたタオルケット。ここで仮眠を採るのだろう。

「職員が若くて美人ですね」全部嫌味。

「相談だが」スルーした。有谷歯科医は椅子のキャスタを転がす。僕とひそひそ話ができる距離まで。

「美人な歯科衛生士のお二方ならびに美人な受付の方に訊かれると困るような内容でしょうか」過剰嫌味。

「娘を捜してほしい」

「家出ではないんですね?」

 有谷歯科医は院内BGMの音量を上げる。環境音楽の域を超えている。ドリルの手元が狂うレベル。

「先ほど娘の友だちが受診にきた」

「はい?」聞こえていたがわざと。「すみません。よく」

「友だちだとは思うんだが」有谷歯科医は僕の声が。

 聞こえなかったのか。聞く気がないのか。聞こえていたが先に進めたか。

「娘だったようにも見えて。あれは娘だったのか」

「はい?」今度は言っている意味がわからない。そうゆう意味合いで聞き直す。「すみませんが、よく」

 自分の娘と。

 自分の娘の友だちを取り違えるだろうか。実の父親が。

「娘は三年前から寮に入っている。盆正月にも帰ってこない。帰ってきたところで私が相手出来ないのをわかっているんだろうと」

「ご自分の娘を重ねているだけでは」

 ドアがノックされる。歯科衛生士の樫武さんが昼休憩をもらうと断りを入れに来た。その後ろに地場さんと受付の砂宇土さんもいる。三人でどこぞへランチに行くのだろう。

「何か買ってきましょうか」樫武さんが気を遣う。「先生、この頃あまり食べられていないようですし」

「心配をかけてすまない。私のことはいいからしっかり休憩をとってきなさい。君たちに倒れられたら敵わない」

「わかりました。失礼します」三人が銘々に頭を下げる。

 もっと粘るのかと思ったが。

 案外ドライな三人。

「言ってないんですが」娘さんのこと。

「余計な心配を掛けたくない」

「すでに掛けてると思いますけどね」全力嫌味。「倒れられて困るのは彼女らではありません。患者です」

「娘がいる場所はわかっている」有谷歯科医が続ける。午後の診察に影響がないように。「宗教の類じゃないかと思うんだが。父親である私でさえ門前払いだ」

「信者以外立ち入るべからず、ですか?」

「男子禁制なんだそうだ」

 院内BGMが消される。

 機械の唸りが聞こえる。

「娘は娘でなくなっているかもしれない。私の知っている霜子でなくて。何か別の、私の知らない霜子に」有谷歯科医が膝の上に載せている手の。「保険証が偽造だった」行き場を探す。

「実費ですね」

「診察はしていない。帰ってもらったよ」

 老婦人が戻って来てから、少女が戻ってくるまでの。

 空白の十分。

「二度と娘に会えない」

 その夜、有谷歯科医は殺されかける。あのとききちんと殺されていたほうが或いはマシだったかもしれない。


      3


 連日連夜の弛まぬ努力の結果、胡子栗ポイントが順調に溜まってきた。ようやく景品交換にありつける。

「課長って呼んでくれればダブルポイントなのに」

「下の名前ならトリプルポイントですか」

 偽名はトール。

 本名は。割とどうでもいい。

「で?ナニして欲しい?」胡子栗が鼻先を突き出す。

「スーザちゃんを対策課から外してください」

「創始者がお弟子を蔑ろにしろとそうゆうつもりかいね。いやはやムダ君。そいつは交換リストにないよ」

「創始者はすでにいない。違いますか」

 彼女は。

 スーザちゃんに消された。

「スーザちゃんが辞めないなら僕が辞めます」睡眠時間を削って書いた書類を。

 前だか現だかの課長デスクに提出する。

「短い間でしたが」

「そうだよ。短すぎる」胡子栗が至近距離で瞼を睨んでくる。「これじゃあ掘り捨てと変わんないよ。遊びだったわけ?」

「どうゆうときにそうゆうセリフ思いつくんですか」

「悲しいとき」

 上のフロアがどんがん騒がしい。

 対策課新事務所にスーザちゃんが殴り込んできた。オレンジ色のワンピース。

「ねえ、監視カメラとか盗聴器とかあるの?」あるに違いない。

「こんなこと許されませんわ。途中で投げ出されるなんて」スーザちゃんは課長デスクの上の書類を目敏く見つけて(先ほどのやり取りの一部始終を観ていたなら当然だが)びりびりに破く。

「あと片づけてちょーだいよ?」胡子栗が暢気な発言を。

 するものだから。

 スーザちゃんのとばっちりがいく。「ボーくんも暴君ですわよ。辞めてしまわれましたらあなたのお命はなかったことにしますとあれほど」

「引き止めたってー俺は。俺のカラダから離れられなくなって。ればいいなと夜な夜な呪ってるよ?」

「一生B2からお出にならなくて結構ですわ」

「地獄かパラダイスかはてさて」胡子栗に叱責は通じない。快楽になっている。

 そんなことを。

 スーザちゃんが知らないはずはないから。「退場ですわ」出入り口を指して。「わたくしが呼びに行くまで待機」

「わ。待ってる待ってる。蹴ってよ?高っかいやつね」

 なんでそんなに嬉しそうなんだ。

 高いやつで蹴る?

 胡子栗が。完全に消えたのを待って。

「お辞めになりませんわよね?」スーザちゃんが言う。

 なんでそんなに悲しそうなんだ。

 わかってる。

 わかってもどうしようもどうにもできないだけで。

 そのために彼女は消され。

 彼女の位置にすっぽりと。スーザちゃんが嵌まった。

「わたくしの生物学上のお母様は」スーザちゃんが言う。「わたくしの生物学上のお父様とここ、日本で出会いましたの。お父様はお母様を長年追い続けていまして」

「お父さんがストーカでお母さんがその被害者?」

 スーザちゃんが冷酷な眼差しで。

 僕を氷漬けにする。

「お母様からそのお話を聞いたとき、わたくし、胸の高鳴りが止まりませんでしたの」

「大丈夫?心臓診てもらったら?」

 スーザちゃんが凶器的なミュールの踵で。

 僕の脛をやっつける。「痛いよ」

「生きている証拠ですわ。お母様はお父様に捕まる気など更々ございませんでしたの。お母様は決して捕まえられません。お父様はご自分の首を懸けてまでお母様を追い続けましたが」

「あのさ、言っとくけど僕は君を捕まえるからね?わかってる?」

 スーザちゃんが口を尖らせる。「黙って最後までお聞きくださいまし。これだからムダさんなのですわよ。捕まる気のないお母様でしたけれど、ケーサツ組織に、というわけのことで。お父様個人でしたのなら捕まる気満々でございまして」

「さーて仕事仕事」スーザちゃんの散らかした紙屑を拾い集める。

「お耳の穴かっぽじって差し上げますわ。こちらにいらして」

「捕まったわけ?」

「フられましたわ」

「フっちゃったの?」お父さんがお母さんを。「え?でも」スーザちゃんは生まれている。

「ママと課長さまに、お母様とお父様と同じ恋路をなぞってほしくなかったのですわ。それはわたくしが繰り返すべき未来。わたくしの理想がそこにどっかりと横たわっておりますのよ」

 彼女が消された本当の動機が。

 そんなことだとは。

 たったそれだけのことで。

 僕の理想は失われてしまった。

「ママと課長さまでは何事も生まれませんわ」

「悪いけど、そこまで聞いといてはいそうですかって従うと思ってる?」彼女は僕の理想そのものだった。

 愛していると告白したかったわけじゃない。ちょっとそこまで付き合ってほしかったわけでもない。

 見ていたかった。見ているだけで満足だった。

 彼女はとても美しくて。

 そんな美しい人は。もう、

 後にも先にも存在しない。

「嫌だよ僕は。君の理想をなぞりたくない」

 僕の理想を。

 壊した罪で。

「捕まえるから。君のお父さんみたいな愚かなことはしない」

「ええ。最高のプロポーズですわ」

 え?

 アレ僕。なんか間違った。

「違うよ?逮捕するって意味でね」

 と、言ってから気づく。

 ケーサツ辞めさせられてた。

「あーえーとそうじゃなくって」

 完全にスーザちゃんの術中に填まっている。

「知ってると思うけどムダだよ?スーザちゃんじゃ」

「あまりムダムダ抜かしますとボーくんのと、代表ごと同質の七人イブンスセブンを切り落としますわよ?」

「え、ちょ、ダメ。それだけは」

 僕の代替理想郷が。


      EVEn7


 イブンシェルタ代表スイナはもう使い物にならない。

 彼女、いや彼の復讐は終わってしまった。

 それでも惰性的に乗り掛かった船のごとく。代表に居座り続けようとするから。

 処分しなければならない。

 処分といっても殺すわけではない。消すのだ。

 イブンシェルタ代表を降りてもらって、それで。

 Q.あなたが代表を継がれるのですか

「本来はスザキがその座にいたはず。捻じ曲げられた世界をあるべき姿に戻すだけ」

 トウタもしばらくは治療のやり直し。

 再発してしまった。

 そもそも殺す気がなかったのではないか。それほど恨んでいなかったのではないか。だからあの男が、

 死に損ねそうになってしまった。

 Q.本当に反省したと思う?

「してなかったからこちらでとどめを刺した」

 ハルドもメインテナンスと改造が必要。

 性感帯を設置する。

 男の前であられもない姿を肌蹴る仕事から解放してやったというのに。取り調べに来たケーサツどもに端からのべつ幕なし脚を開く始末。実際は搾取されることを望んでいるとしか。

 Q.約束を破った私への罰ですか

「依存症にさせてあげる」

 ルシユは一番の理解者だった。

 理解が度を超してしまったせいであのような結末に。

 どうして止められなかったのか。あの女装男を吊るし上げて同じ目に遭わせてやらないと気が済まない。

 Q.(特になし)

「ごめんね。僕のせいで」

 リフラはその見紛う美貌を利用して相変わらず。

 イルナとグルになって搾取男を根絶すべく。

 この二人の行動が最もイワタ様の理想に近い。

 この世から搾取男を絶滅させるまで止まらない。止めるつもりもない。奨励したい。

 Q.次はどうする?夜はダメだけど

「決めてあります」

 Q.射月は生き返るでしょうか?

「続けていれば必ず」

 搾取男がのうのうと働いている職場に来た。これから三人揃って面接を受けに行く。

 Q.好きなタイプは?ごめん。冗談。緊張ほぐそうと思って

「先生みたいな人です」

 夜が好きだ。リフラはポーズでああ言ってるけど。

 僕は夜の妃。

 砂宇土ヨウヒ。

 イルナが搾取男を殺した夜、国際電話があった。

 Q.スーザは元気でやっとる?

「はい。僕の理想です」

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イヴクロテクス 伏潮朱遺 @fushiwo41

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