フィクション

花梨

フィクション

 買ってきた惣菜を食べ終えて、先ほどポストから取り出した往復ハガキを見つめる。中身を見なくても、全部わかる。結婚式の招待状だということも、差出人が誰かも。

 「前に話した好きだった人、この前偶然会ったんだ。付き合うことに、した。」

 あんなに真剣な顔をしている井澤を、私は今まで見たことがあっただろうか。


付き合うことにしたって、今あんたと付き合ってるのは私じゃんか。


そんなこと、口が裂けても言えなかった。だって、私は顔で選ばれたんだから。あんたの初恋の人に似てるからって、選ばれただけなんだから。あの時自分がどうやって了承したのかは覚えていない。ただ、最後まで私は物分かりのいい女を演じることができていたんだろう。だってそうじゃなきゃ結婚式になんて呼んでこないでしょ。

ため息と一緒に吐いた紫煙に、新郎姿の井澤を見る。


結婚式、いいな。タキシードの井澤を見てみたい。


 でも参加は難しいなと思った。ケーキ入刀なんて見てたら、ケーキナイフを横取りしてでもお嫁さんを刺し殺してしまいそうだったから。そうして赤く染まったウェディングドレスまで想像して、欠席に丸をする。

 

結婚おめでとう!どうしても都合が合わないので、欠席させていただきます。井澤が本当に好きな人と結ばれて、嬉しいです。今度こそ大事にし

そこまで書いて、グシャグシャと丸めた。


「早く泡になって消えちゃいたいな」

人魚姫でさえ溺れてしまうんじゃないかってくらい、涙が流れた。

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フィクション 花梨 @mashounolady

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