第108話 lose control of one's emotions

─── 今日はちょっと身体に煙の臭いが染み込んでたからお風呂に入りたかったんだよね。

お風呂の脱衣所に繋がる扉を開けた。

「いやん、輝様のエッチ~」

そこにはわざとらしく服を脱ぎかけながら腰をくねくねさせる炎の精霊がいた。


「ご、ごめんなさい!……て言うと思いましたか?なんでこのタイミングで我が家のお風呂の脱衣場にいるんですか??絶対わざとですよね……?」

普通ならちょっと慌てるシチュエーションだが、意外と冷静な僕がいた。

「ばーれーたーか~」

炎の精霊サラちゃんはそう言うとぴゅーっと脱衣場を出て何処かに走っていった。

……彼方の世に帰らなかったところをみると、まだなにかイタズラを考えていそうな気がする。


とりあえず脱衣場の内鍵をかけて服を脱いでお風呂場に入った。

これでひとまず安心。

お風呂の給湯ボタンを押した後、僕は身体を洗うために椅子に座った。

うちのお風呂は身体をゆったり伸ばして入れる位の大きさなのだけど、深さは凄く浅いんだ。

だから身体を洗ってシャンプーしてる内にある程度お湯もたまっちゃう。

僕は温度を確かめた後、シャワーを頭から浴びた。

「あー気持ちいいなー」

温かいシャワーが一気に疲れを吹き飛ばしてくれた。

そしてシャンプーを手に取り頭を洗い始めた。

背後から声が聞こえたのはそんな時だった。


「───お背中流しましょうか?」


「!?」

もしかしてサラちゃん!?

「さっき鍵かけたはずなのに!」


「私達は扉をすり抜けることが出来ますので……」

精霊は鍵なんか関係ないのか……


……って、この声は土の精霊のアーちゃん!?


「今回の旅ではお役に立てなかったそうで……せめてお背中でも……」


「え?役に立ってないって??そんなことないよ!」

僕は一生懸命否定した。

「いえ、私のお贈りした盾は旅のお伴にも連れていっていただけなかったとか……」

「そ、そんなことない!たまたま屋敷に乗り込むときに持っていかなかっただけだよ!」

「所詮は私など塵のかたまりの様な価値のないものですものね……重要な時には足手まとい……」

シャンプーの泡で目が開けられないが、後ろからどよーんと重い空気が流れてくる。


「まって!誤解だよ!誤解!誰に聞いたの??」

ちょっと話を整理するためにアーちゃんに質問した。

「先程サラに聞きました……」

それを聞いて少しわかった気がする。


あの時───洗脳された人達を助けに行く時、僕は炎の精霊にもらった剣と土の精霊にもらった盾を置いていったのだ。

それを知って二人とも僕に必要とされていないのでは?と悲しくなっていたんだ。

……申し訳ないことしちゃったな。


「アーちゃんのくれた盾もサラちゃんのくれた剣も本当に僕を助けてくれているよ。何より僕に勇気も与えてくれるよ。だから、そんなに悲しそうにしないで……」


「───本当ですか?」

いつの間にかサラちゃんもお風呂場に来ていたみたいだ。


「本当だよ。だから……ちょっとお風呂場から出て待っててくれるかな??恥ずかしいよ……」

僕がそう言うと二人ともお風呂場から出ていってくれた。

とりあえずビックリしたけど理性が勝ったね。

でも、早めにお風呂あがって誤解を解いておかなきゃ。


「サラと二人、輝様のお役に立てていないのではと心配しておりました……」

「本当にそんなことないから!」

お風呂からあがってしばらく僕の部屋で二人と膝を付き合わせて話をした。




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伝説の跡継ぎは僕!?宝の地図はどこだ!? 観音寺 和 @kannonji

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