山神の花嫁(500字)

 家の屋根に立った白羽の矢を見て、父母と姉は蒼白になりました。


 この村は山の麓にあり、山には神様が住んでおられます。誰も見たことはありませんが、村の伝承によれば、大きな猿のようなお姿だそうです。

 その神様が時折、花嫁をお求めになるのです。見初められた娘の家に白羽の矢が立つと、村は直ちに婚礼支度を整え、七日目の夜には娘を山へと送り届けます。

 嫁いだ娘が帰ってきたことは、一度もありません。


「嫌です! ひさを差し出すなんて!」

 狂乱する母。

「じゃが、差し出さねば、村全体が祟られる!」

 動揺する父。

「わ……私じゃない。いとが行けばいいのよ。そうよ、お前だって、この家の娘だもの」

 姉が美しい顔を歪め、私に懇願します。父も母も、その手があったか、という表情でこちらを見ます。

「……無理です」

 うつむいて、私は答えました。

「父様も母様も姉様もいつも、お前は醜い、まるで化け物だ、と仰っているじゃありませんか。そんな私を、神様がお見初めになるはずがない。村の人たちだって、納得しません」

 口元に、薄く笑みを浮かべて。


 姉を選んだ神様に。

 そして、常に姉と比べられ蔑まれてきた、この顔に。

 小汚いぼろをまとった私は、心の中で杯を掲げました。

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モンスターへ乾杯! 卯月 @auduki

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