適性テスト

適性テスト

※テストを始める前に、この注意文をよく読みましょう。

　ただいまから、あなた方の適性テストを始めます。

　回答時間は、スタートから答えを見るまでの間。

　つまり、有限であり無限。

　結末を知らなくてよければ、永遠に答える必要もない。……まぁ、当たり前でしょうね。

　このテスト、少し普通の適性テストとは違っています。通常は「はい」または「いいえ」で答えますが、今回、こちらからの質問は全て「指示」となっております。

　なのでみなさまには「従う」か「従わない」を選んでいただきます。

　テストの結果に直結します。数を覚えておくように。

　最後に、このテストで出される「指示」は、従っても従わなくても、実際に今、行うわけではありません。

　例えば、「電気を消してください」という指示があっても、実際に部屋の電気を消す必要はありません。

　あくまでも、従うことが出来るか出来ないか、その時の気持ちでお答えください。

　準備はいいですか？　いきますよ？

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　第一問、泣いてください。

　時間制限はありません。どれだけ時間がかかってもいいし、普通に泣けなければ誰かに殴ってもらったり悲しい映画を見たり、何をしても構いません。

　重要なのは、声をあげてわんわん泣くことです。周りに人がいようとも、泣いてください。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　……え？　泣きはするのに、笑わなくていいのかって？

　笑えるなら笑った方がよいでしょう。ただし、泣き叫んだあとで。

　最も重要なのは「泣くこと」です。

　第二問、目の前に山積みになった野菜があります。どれもこれもあなたの苦手なものばかり。

　……野菜は好き？　ならばその野菜は言い表し難いほど不味いものだとします。

　この野菜を、全て食べてください。残さず全て。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　具体的な量、ですか？　そうですね……少なくとも直径30cmほどのボール一つ分、でしょうか。自分が食べない限り、増えることはあっても減ることはないでしょうね。

　あぁそう。望むのであればドレッシングやマヨネーズをかけられますよ。それほど多い量ではないでしょうが……まぁ、いくらか楽になるでしょう。

　第三問、綺麗な花畑があります。色とりどりの花が咲き、鳥が歌い、蝶が舞っています。そこには確かに、豊かな自然があるでしょう。

　踏み荒らしてください。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　どうして踏み荒らすのか？　理由なんて求めてどうするんです？

　これは、ただのテスト、です。

　誰のものと言われているわけでもない。

　踏み荒らす理由もなければ、踏み荒らしてはいけない理由もないんですよ。

　第四問、隣で赤ん坊が、哺乳瓶でミルクを飲んでいます。

　奪い取ってしまいましょう。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　そんなことしたら赤ん坊が泣いてしまう？

　下手したら食べるものが無くなって死ぬって？

　……何をバカなことを。だからなんだと言うんです？

　泣くなら泣けばいいじゃないか。ずっと泣いていることは出来ません。そのうち泣き止んで静かになるでしょう。

　それに、さすがに母親が側にいて、新しいミルクを持ってきますよ。

　……あなたには、なんの文句も言わずに、ね。

　第五問、川が流れています。かなり大きな川です。この川の水を生活用水にしている町も多いようです。

　毒を流してください。毎日、大量に。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　毒を流すなんて酷いじゃないか！　……って？　今さら何を言うのです。

　最近の技術は発達しているんですよ？　あなた一人が毒を流したって、簡単に除去できる。それだけの技術を、この国はもうすでに持っているんです。

　……そう、あなた一人だけが、毒を流していたらの場合だけどね。

　まぁそれならそれで仕方ないでしょう。

　あなた一人が毒を流さなくなったって、他のみんなが流しているのだから。

　しかしまぁ、最近の技術ってのはすごいもので、みんながみんな毒を流しても除去出来るんですよ。これで安心安全ですね。

　人は死なずとも、他が死ぬでしょうが、我々にはそんなこと関係ない。

　第六問、目の前に「なにか」がいます。鳥のようにも見えます。豚や、牛、あるいは魚、なにかの動物のようにも見えます。しかし、人ではありません。

　殺してください。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　さすがに抵抗が強いですか？　なら、一つだけ言っておきましょうか。

　それを殺しても、誰もあなたを非難しない。

　誰もあなたを責めない。

　誰もあなたを裁かない。

　…………裁けない。

　それどころか称賛されるでしょう。

　「よくやった！」「これで我々は幸せになれる！」「素晴らしい！」とね。

　…………。

　……殺したくなってきましたか？

　第七問、「なにか」の死体が転がっています。

　腹を切り開き、内蔵を取りだし、手足をもいでください。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　嫌だ？　……へぇ。

　いいですよ別に、従わなくても。

　回答は、自由に選択するべきものですから。

　――干渉は、しませんよ。

　第八問、ぐちゃぐちゃになった「なにか」があります。

　目は白く、口は半開きのまま、体だったと思われるものは血で汚れ、錆びた鉄の臭いがプンプンします。

　手足は少し離れた場所にあり、少し腐っています。もうしばらくすればハエがたかり、臭いもさらにひどくなるでしょう。

　……嫌、ですよね？

　捨てましょう。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　第九問、あなたが学生ならば、あなたのクラスメートが、社会人であれば仕事仲間が、どちらでもなければ家族が、それもいなければどこかの誰かが、目の前にいます。

　あなた方二人は、一人にならないと決して外には出られない部屋にいます。他の方法は……無くはないかもしれません。

　あなたの目の前にいる彼、または彼女は、二人で一緒に外に出る方法を探そうと言ってきます。

　出来れば、一緒に出たいのだと。

　きっと、何か方法があるはずだと。

　だから一緒に、考えてほしいと。

　…………。

　…………。

　――…………殺せ。

　1.従う　　　　　　2.従わない

　第十問、最も重要な問題です。

　嘘を、吐き続けましょう。

　あなたは、ここにくるまで、この問題に辿り着くまで、たくさんの罪を重ねたかもしれません。

　赤ん坊からミルクを奪う、花畑を荒らすなんて生易しいことから、

　……殺人まで。

　嘘を吐き続けましょう。

　善人で居続けるのです。

　自分は、虫一匹殺せないような人間なのだと……そう、他人と自分に言い聞かせ、自分と他人に嘘を吐いて生きるのです。

　嘘を吐き続けましょう。

　あなたのような悪人を受け入れてくれる世の中はないでしょう。

　あなたが生きるためには、あなたを殺さなくてはいけないのです。

　個性など出してはいけない。目立ってはいけない。劣らず秀でず、ひっそりと生きるのです。

　大成功はしなくても、安定した人生になるでしょう。

　……嘘を、吐き続けなさい。

　1.従う　　　　　　2.従わない

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　勘のいいあなたは、もう気づいたでしょう。このテストが、なんのための適性テストなのか。

　これは、あなたが人間として生きていくためのテスト。

　あなたが全力で生き抜きたいのなら、恐らく、このテストの「指示」には全て従っていなければならないでしょう。

　問題は全てで十問。何問、従いましたか？

　細かく何問から何問の人は～なんていうのは、人によって考えが全く変わるでしょうから遠慮いたします。

　ただ……一つだけ、言わせていただきます。

　これは私の個人的な意見です。

　第一問と、第二問だけに従った方。

　あなた方は、この世界を生き抜くにはとても弱い。

　自分自身への苦痛は耐え凌ぎ、しかし、他人には手出しをしない。それが、人間であってもなくても……。

　あまりにも弱い。すぐにでも、全てに従った方に負けてしまうでしょう。

　そもそも、本当にそんな風に生きることは出来ないでしょう。……えぇ、ほぼ不可能です。

　……でも、本当の意味で「人間」として生きていられのは、あなた方のような人でないかと、私は思うのですよ。