108 新しい剣が出来上がりました!(9/30 改稿)

 焚き火の灰にサツマイモを埋めておいた。

 ちょうど、ほっくほくの食べ頃じゃないかな。

 俺は灰の中から焼き芋を掘り出した。

 

「ルクスの作ったご飯は、美味しいから好き!」

 

 幼馴染みは満面の笑顔で、焼き芋を食べている。

 少女の着ているモスグリーン色のスカートの上に、紅葉がふわりと落ちた。栗鼠がドングリを抱えて、チョロチョロ走ってく。すっかり秋だな。

 ここは、俺が人間の少年だった頃によく遊んだ、故郷の森だ。

 ということは、これは夢なのかな。

 焼き芋を食べたいけど、食べてしまったら夢から覚めるかもしれない。だいたいご飯にかぶりつく瞬間に夢は覚めるものだ。

 

「食べないの?」

「俺は遠慮しとく」

 

 蜂蜜色のサツマイモの断面を見ながら、よだれを飲み込んで我慢する。断面からは、良い匂いのする湯気が立ち上っていた。

 現実で実物が食いたい。

 

「変なのー」

 

 ころころ笑う少女の瞳は、明るい金色だった。

 あれ? こいつって、赤い髪と目をしてなかったっけ。

 

「ルクスが食べないなら、私がルクスの分まで食べちゃうよ?」

「タベチャウゾー」

 

 途中で変な声が入った。

 誰の声だろう。

 幼馴染みの声と重なって聞こえる。

 

 

 

 

「アサゴハン、タベチャウゾー」

「……うわっ」

 

 俺は汗をびっしょりかいて、飛び起きた。

 お腹の上からビヨーンと何かが跳ねる。

 

「マスター、オハヨウ、オハヨウ!」

「うわっ……ってなんだ、エムリットじゃないか」

 

 布団から這い出し、ベッドから降りて、床を転がるエムリットを持ち上げる。

 

「おはよう、エムリット」

「グッモニーン。マスター、ユメ、ミテタ?」

「夢?」

「ウナサレテタ」

「何かあったっけ……?」

 

 エムリットを持ち上げている間に、寝ている間に見ていた夢の残滓は、さっぱり消え去っていた。

 落ち着いて周囲を観察すると、そこは物置のような部屋だった。

 床の上には工具が散乱し、壁際には壊れた時計が積み重なっている。

 

「起きたのか、ゼフィ」

 

 イヴァンが部屋に入ってきた。

 

「おはよう、イヴァン。俺どのくらい寝てた?」

「三日だ」

「そんなに?!」

 

 市長のバーガーさんにお酒をすすめられて、その後の記憶が無い。

 

「ここどこ?」

「ここは、南の時計地獄クロックヘルだ」

「え?」

 

 ニダベリルじゃないの? という俺の疑問を察したのか、イヴァンは暗い表情だった。

 

「ゼフィが酒に酔ったついでに魔物を一時的に追い払った後、俺たちとゴッホさんガーランドさんは時計地獄クロックヘルに、市長のバーガーさん率いる一部の大地小人は別の場所へと、ニダベリルから避難を開始した」

「避難? 市長さんはニダベリルを放棄する判断をしたの?」

「魔物の攻撃で、ニダベリルを囲む壁はだいぶ薄くなっていたから、突破されるのは時間の問題だった」

 

 イヴァンの説明に、俺の眠気はすっかり覚めた。

 寝ている間にいろいろあったんだな。

 

「それじゃ今、ニダベリルはどうなってるの?」

「つい先ほど、壁が破られて街の中に魔物が侵入したらしい。逃げ遅れた大地小人たちは、邪神ヒルデに本にされているかもしれない」

「そんな!?」

 

 俺は急いで身なりを整えて、部屋から飛び出した。

 

「兄たん、師匠!」

 

 クロス兄は通路で丸くなっており、師匠のヨルムンガンドは石のお椀の中を水で満たして、お風呂に入っていた。

 

「なんだゼフィ、起きたのか。調子はどうだ?」

「兄たん、俺、大地小人の皆を助けに行く!」

「起きたばかりなのにゼフィは忙しすぎるぞ!」

 

 クロス兄は、わたわたして俺を止めようとした。

 師匠のヨルムンガンドが、ゆったり水に浸かりながら言う。

 

「フェンリル兄は、過保護じゃのう~」

 

 本当にな。

 俺は深呼吸して、クロス兄の青い眼を見上げた。

 

「兄たん、俺、大地小人を助けに行きたい。だって気になるんだもんっ」

 

 正面から訴えると、クロス兄は「うっ」とたじろいだ。

 

「うう、ゼフィの可愛さで、思わず許可してしまいそうだ」

 

 このまま兄たんを丸めこんじゃえ!

 そう、意気込んでいると。

 

「――うおおおっ、できたーーっ!」

 

 急に誰かの大声が響き渡った。

 ゴッホさんの工房のある辺りで、ガラガラと物が崩れる音がする。

 何事ですか。

 

「できたぞ! 最っ高の剣だ!」

 

 工房から知らない人が出てくる。ゴッホさんじゃない。

 誰だ?

 

「おい、お前!」

「はい?」

 

 その男性は目の下にものすごい隈を作っていた。

 尋常ではない剣幕で俺に向かって歩いてくる。

 そしてズバッと勢いよく、手に握った棒をこちらに突き出した。

 

「二度と折るんじゃねえぞ」

「あ」

 

 それは、修理をお願いしていた愛剣・天牙だった。

 

「ど、どうも。って大丈夫?!」

 

 男性は俺に天牙を渡すと、地面に倒れて豪快な寝息を立て始めた。

 イヴァンが苦笑して補足する。

 

「ほら、水車を見に行った時に助けた人だよ」

「言われてみれば、そんなやついたな」

「鍛冶の心得があると言って、ガーランドさんと一緒にゼフィの剣を打ってたんだ」

  

 おかげで一週間かかるはずが、三日で作業が終わったらしい。

 

「ありがとう! これで邪神もまっぷたつだよね?」 

「おいこら、ゼフィ!」

 

 新しい剣で早く魔物を試し切りしてみたいなあ。

 俺は喜びいさんで駆け出した。

 慌ててクロス兄が追ってくる。

 走りながら、俺は天牙を鞘から抜いた。

 新しくなった刀身は見た事のない澄み切った空色で、金粉をまぶしたような輝きを放っていた。

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