新型魔導銃の秘密

50 銃と剣、どちらが強いですか

 ティオはアールフェスと一緒に行くのは反対みたいだけど、結局、同じ道を行くから変わらないんだよな。


「アールフェス、一緒に来たいなら勝手についてくればいいよ」

「ゼフィ?!」

「だって学校で会うだろ、どうせ」


 勝手についてこい、と言えば、向こうも諦めるだろう。俺の正体を知られたくないから、べったりくっついて一緒に行動するのは御免こうむる。

 不満そうにしているティオにも言う。


「ティオ、この先お前をお坊ちゃま扱いして、舐めてかかる奴らが山ほど出てくるぞ。いちいち怒るなんて時間の無駄だ」

「……ゼフィがそう言うなら」


 やれやれだな。

 俺は席に座り直してデザートを口に運んだ。

 少し離れて様子を伺っていたロキが、胸をなでおろす動作をする。


「……セイル。君は剣術が得意みたいだけど、エスペランサの竜騎士学校じゃ、それは何の役にも立たない。今、世界の最先端はエスペランサの魔導銃なんだ」


 アールフェスは、俺とティオのやりとりが終わった後、真剣な顔をして言った。

 セイルというのは俺の偽名だ。

 ティオが不思議そうな顔をする。


「まどうじゅう?」

「知らないのか? 時代遅れだな。弓よりも素早く狙撃できて、威力も弓とは段違いの道具だよ。これがそうだ」


 腰のホルダーから、小型の銃を抜いて俺たちに見せるアールフェス。

 長い金属製の筒に木製の握りが付いた、奇妙な形の武器だ。

 魔導銃は、ハンターが神獣を狩る時に持ち出す武器でもある。俺が人間だった頃は、戦場に出てくることはまれだった。その頃、銃は剣より高価で量産できなかったようだ。だから至近距離で実物を観察するのは、これが初めてだったりする。


「へーえ。どういう仕組みで動いてるの?」


 スプーンをくわえて俺は魔導銃をのぞきこんだ。


「魔導銃は魔石の力で火を起こして、鉛の弾を発射する仕組みだ。最新式の魔導銃は、鉄の盾も貫く威力を持っている。剣なんて振る前に銃撃を受けたら終わりだぞ。だからエスペランサでは、剣を持ってると昔の武器を持ってる物好きだって馬鹿にされるんだ」


 ほーお。剣が昔の武器、ねえ。


「剣より銃の方が強い」


 アールフェスは断言する。

 俺の頭上に浮いているメープルは怒った顔をした。


「よく言ったわね! 私とゼフィは魔導銃になんか負けないんだから!」


 剣の精霊であるメープルは、銃の方が強いと言われて気分を害している。

 俺はデザートに舌鼓したつづみを打っていた。


「ちょっとゼフィ!」

「んー?」


 幸せそうにデザートを頬張る俺に呆れたのか、アールフェスは銃をホルダーに戻して、きびすを返す。


「余裕ぶっていられるのも今のうちだ。エスペランサでは僕の方が強い」


 そう宣言して去っていく。


「ゼフィ、喧嘩を売られたけど……」

「ほっとけほっとけ」


 俺はスプーンを皿に置いた。


「あいつに勝ったって強さの証明にならないだろ。それよりもエスペランサって、何か美味い特産品あるかなあ」


 ティオは俺のコメントに納得したような、してないような複雑な顔をした。




 こうして俺たちはスウェルレンの国境を越え、花の国オリエントを通過し、いよいよ大国エスペランサに入った。

 アールフェスはあれ以来、俺たちに接触してこない。


「あーつーいー!」


 エスペランサは真白山脈フロストランドより、かなり南方だけあって気温が高い。雪と氷のフェンリルには厳しい気候だ。

 ティオと俺が入学する竜騎士学校は、火山の近くにあるらしい。


「溶けて死んじゃう……」

「大丈夫、ゼフィ?」


 ううむ。これは対処法を考えないと駄目だな。

 暑い暑いと嘆きながら、さらに数日かけた旅の果てに、俺たちは火山のふもとの街レイガスに到着した。

 レイガスはエスペランサでも大きな街だ。大通りは馬車が二台走っても余裕がある幅で、歴史を感じさせる大きな建物が並んでいる。


「あー、疲れた。その辺の喫茶店で休憩しようよ」

「ちょっとフェンリルくん、勝手に進まないでくれ」


 文句を言うロキは無視して、俺は挙動不審なおのぼりさんになっているティオの手を引っ張り、喫茶店をのぞいた。

 こちらが高貴な身分だと察したのか、ウェイターさんがわざわざ空いた席に案内してくれる。


「こちらへどうぞ」


 だが、席に着く直前に、隣のテーブルの身なりの良い男二人組が、因縁をつけてきた。


「おい。俺たちの横に、そんな田舎者いなかものを座らせるつもりか」

「しかしこの方々は……」


 ウェイターさんが困った顔をする。

 いくらなんでも、他国の王族貴族を田舎者呼ばわりするのは不味いもんな。

 上品なお店だから貴族の出入りもあるのだろう。店の人は、身分のある者への接し方が分かっているようだった。

 だが、隣のテーブルに着いているのは、あれはどうみても貴族のドラ息子だ。

 やたら装飾過剰な格好をしていて、権力を笠に着た連中独特の傲慢そうな雰囲気をかもし出している。

 膠着した空気を壊したのはティオのあっけらかんとした声だった。


「空いた席に誰が座ってもいいでしょ。店の人を困らせないでよ」


 あっちゃー。

 ティオの無邪気な言葉に、ドラ息子二人組の顔色が変わる。


「この田舎者! 俺たちを誰だと思っている?!」

「え、誰? 知らないよ」

「控えろ! 俺はバークリー男爵家の者だぞ!」


 なんだ、男爵か。貴族でも下の方だな。


「バークリー男爵? それって偉いの?」


 物心ついた時には、偉い人なんていない真白山脈フロストランドの村の子供、そしていつの間にか誰も文句が言えない王子様になっていたティオは、身分差や位というものが全然分かっていない。

 本当は貴族同士でも名乗りあいや礼儀ってものがある。

 だけど……相手もその辺、分かってなさそうだなあ。

 ティオの台詞に、案の定、ドラ息子は切れた。


「おのれ、不敬である!」


 腰から魔導銃を抜くと、いきなり発砲する。

 店内で他の客もいるのに馬鹿かこいつ。


「っつ!」


 俺は咄嗟にティオの前に出ると神速で"天牙"を抜剣し、剣風で弾道を切った。

 はじかれた銃弾は壁に跳ね返る。

 しかし俺の後ろに寝そべっているウォルト兄が、銃弾を氷漬けにしてさりげなく跳弾を止めていた。


「なっ、銃撃を、剣で防いだ?!」


 ドラ息子が大げさに驚愕する。

 抜いた剣を男の前に突きつけると、俺は不敵な笑みを浮かべる。


「不敬? どちらがだ。そちらが控えろ。殿下の御前なるぞ」


 ちょっと芝居がかった口調で言ってやる。

 ロキが「それは俺の役目なのにー」と嘆いているが、こういうのは早いもの勝ちなんだぜ。

 ドラ息子の空いた口が縦にひろがって、顎が地面に付きそうなくらいになった。

 驚きすぎだ。


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