49 デザートは別腹です

 服と"天牙"を回収して追い付いた時には、ウォルト兄とクロス兄は協力してベヒモスの手足を氷で封じ、とどめを刺そうとしていた。

 俺は愛剣を抜いてベヒモスの角を切り落とす。

 そのまま背中に乗って、頭の後ろを剣で突いた。


 でっかいサイのようなベヒモスの巨体は、どうと横倒しになる。最後に地震が起きて洞穴が崩れそうになったが、俺の魔法で天井に穴を開け、氷の柱でベヒモスを押し上げて脱出した。


 地上に出ると変身の魔法を全部解除した。

 ウォルト兄とクロス兄は元の大きなフェンリルに戻り、俺は小さな子狼の姿になる。


「べひもす、うまー!」


 俺たちは久しぶりの大物にかぶりつく。

 大食いのウォルト兄とクロス兄は、あっという間にペロリとベヒモスの肉を平らげた。白い骨になったベヒモスの隣で、ごろんと横になる。

 満腹になった俺は残った骨をかじりながら、お月様を見上げた。


「でざーと、たべたいな……」


 口の中を、果物のジュースですっきりさせたい。

 まんまるお月様が黄金の果実だったらいいのに。


「りんごか、おれんじを、ぎゅーっとしぼって」

「何を言ってるんだゼフィ」


 クロス兄は呆れたように言って、ふさふさの尻尾で俺を叩いた。


「まだ食いたりないのか」


 違うよ。ジュースが飲みたいんだよ。

 だが腹が満ちて眠くなった俺は、そのまま兄たんにもたれて眠ってしまった。




 ティオのもとに戻って話を聞いたところ、スウェルレンの鉱山事故は、フェンリルの加護とアールフェスの活躍により、大多数の鉱夫が生還したことになっていた。ローリエ王国を守護するフェンリルの噂は、近隣諸国に広まっているようだ。

 スウェルレンの王様は、ティオ宛に感謝状を送ってきた。


「わあ、綺麗な模様の入った紙!」


 王族貴族のやり取りで使われる手紙は、偽装防止に透かし模様が入っていたり手が込んでいる。

 ティオは物珍しそうに紙をひっくり返して凝視した。

 ところで今回の件で感謝状を送られた奴は、もうひとりいる。

 

「……貴様が"天牙"の持ち主にふさわしいと、認めた訳じゃない」


 わざわざ俺とティオの泊まる宿屋にやってきて、アールフェスは偉そうに言った。

 ちょうど食堂で朝食のスペシャルオムレツを食べているところだった。俺は朝食のためだけに人間の姿になっている。

 食事の邪魔するなよ。

 

「あなたに認められる必要はないわ!」


 話題に上がった、"天牙"の精霊メープルが現れて抗議する。


「私の主はゼフィ! 私がそう決めたんだもの!」


 間近に現れたメープルの姿にアールフェスは見とれている。

 無理もない。空色の髪をなびかせて空中に浮かんだメープルは、宝石のように透明感のある輝きを放っている。だが硬くて冷たい宝石と違い柔らかい雰囲気で、生き生きした表情はとても魅力的だった。


「だいたい、あなた、剣を使えないでしょ!」


 え? 俺は思わずアールフェスの腰の片刃曲刀サーベルを見た。立派な刀剣持ってるのに使えないのか。立ち姿に剣士の気配を感じないのは、隠してるからだと思ってたけど。


「ああ、僕は剣を使えない!」


 アールフェスは胸を張って肯定した。


「それどころか運動神経ゼロだ! バルト将軍の息子なのにそれはどうかとか、見掛け倒しだとか言われるのは耳タコだぞ!」

「それ、自慢できることなの……?」

「ふっ。故郷で落ちこぼれだと言われたこの僕だが、竜騎士学校で最強のパートナーを手に入れたのだ。これでも成績は良い方なんだぞ!」


 ごめん。なんだか切なくて涙が出てきたよ。

 俺は思わぬ打ち明け話に同情してしまった。


「アールフェス、苦労してるんだなあ」

「同情するなら僕を評価しろ」

「……えいっ」


 俺たちの会話を聞いていたティオが、アールフェスの後ろに回り込んで、いきなり膝かっくんした。

 アールフェスはつんのめって近くの柱に額をぶつける。


「何をする?!」

「わあ、本当に弱いや。僕より喧嘩できない人、初めて会った」


 実演ありがとうティオ。

 しかしティオにも負けるだなんて、可哀想に思えてくるぞ。


「ふっ。腕力だけが、この世の全てじゃない。心の強さが未来を切り開く……」


 格好つけて言うアールフェスだが説得力皆無だった。

 何か話がずれつつある。

 俺は軌道修正することにした。


「アールフェス、何しに来たの?」


 "天牙"の件で文句を言いに来ただけなら、お引き取り願おう。

 これからデザートの林檎りんごのコンポートを食べるところなのだ。甘いシロップで煮た林檎を冷やして、ホイップクリームを添えたデザートが硝子ガラスの小皿に盛ってある。


「君たちはエスペランサの竜騎士学校に行くところだろう。僕もちょうど学校に帰るところなんだ。一緒に行こう」


 案外、まともな提案だ。

 でも決めるのはティオだ。俺は付き添いで学校に行くだけだからな。


「僕より弱い人と一緒に行きたくない」

「何?! 貴様、誰に向かって」

「さっきから僕を無視してゼフィとばっかり話をするんだもの。頭に来る」


 ティオは不満そうに唇を尖らせる。

 思わぬ返答にアールフェスは狼狽しているようだ。

 慌てて俺に向かってまくし立てる。


「お、おい! 学校の先輩を敬うとか、建前と本音を使い分けて情報収集するとか色々あるだろう。このお坊ちゃまに教えてやれ!」


 なんで俺に言うの。


「自分の力だけでは何もできない人が偉そうに! ゼフィ、言ってやってよ!」


 お前ら、そろって何なの。

 俺から見ると五十歩百歩だぞ。


「セイル!」

「ゼフィ!」

 

 二人の少年から答えを迫られ、俺は後ずさった。

 それって答えたら美味しいご飯を食べられるとか、何か良い特典あったりする?

 

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